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2章 仕事仲間が出来ました。

第10話 しつじ、ではなくヒツジな子

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 「そろそろ、二人目を喚んでもかまいませんか?」

 アグリ様がそう提案してきたのは、初めての子豚がそろそろ出荷できる程大きくなった頃のことだった。

 「今度はどんな方ですか?」
 「獣人の方です。もうじき初老といった年代の、羊人族の男性ですね」

 そう言われて、脳裏には羊な執事が勝手に思い浮かぶ。
 いやいや、勝手なイメージは良くない。

 「ええ、ユージーンも落ち着いてきていますし、問題ないはずです」
 そんな訳で、また約一月後に新しい人が来ることになった。

 それをユージーンに伝えると。
 「獣人族、ですか。俺の住んでいた街は魔族の国の真ん中辺りにあったんで、魔族以外の種族は見たことなくて。ちょっと楽しみですね」
 と興味深かげな様子だった。

 私はといえば。
 「糸と布、貯まりすぎたわね……」

 羊の飼育を始め、麻や綿花の栽培も始め、メーカーも導入したおかげで布と糸の入手が可能となったのだが。

 いや、一応挑戦しようとはしてみたのだ。
 最初は簡単にTシャツから始めようとしたのに、出来たのは縫い目もガタガタで端のあちこちがヨレたりほつれかけだったりする、寝間着として使うにも躊躇う代物で。
 間違ってもアグリ様やユージーンの前では着られない、いやこれ自体を見せられない、そんな残念すぎる一着だったのだから。

 時折糸や布をポイント交換に出して倉庫内の在庫量を調整はしているものの、不良在庫を抱えている気分になるのだ。
 それもわざわざ食料品の倉庫とは別に新しく倉庫を増やしただけに尚更悔しい。

 「……衣食住の衣がダメなら住を充実させるのが次の目標かしらね?」

 今はポイントで建てたアパートの部屋がまだあるけど、もう何人か増えたら満室になる。

 食は段階を踏みつつもどんどん充実しているし、それに使うポイントもそんなに多くはない。

 「と、なれば次は植林、か」
 木材を自分で用意できれば、家関連の物を交換するポイントの節約にもなるし、景観も良くなる。

 「場所は果樹園の奥で良いよね……」

 ついでにそこにきのこ園を造っても良いかもしれない。
 一つ失敗しても、楽しみはまだまだ沢山あるのだから。

 「何より新しい人がご年配の形みたいでホッとしたよ……」
 男性なのが惜しいけど、少なくとも美形成分を中和してくれそうな人なのはありがたい。

 ちまちまと木の苗を植えつつ、新しく来るという人に思いを馳せながら、バンダナを結び直した。
 ああ、このバンダナは制作に完全に失敗したTシャツのリメイク品だ。
 農作業中にとても役立っているから、糸と布の制作を完全に止める選択が出来ずにいるのだった……。
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