92 / 119
第十章 闇の吸血竜王に嫁入りします!
結婚式前夜〈兄視点〉
しおりを挟む
その日、男爵家は上を下への大騒ぎとなった。
他国の王にその側近を迎え入れなければならないのだから。
その内の一人は実の娘、或いは実の妹なのだが、今となっては彼女さえ他国の王妃となっている。
本来なら国賓扱いで城に滞在すべき面子が揃ってやって来る。
普通ならピリピリしなければならない所、その訪問目的がエルシエルと、闇の竜王陛下との結婚式だと伝えたところ、村人たちは早速式に合わせて祭りの開催の許可を求めてきた。
……男爵家のメンツより余程肝が据わってると、ふと私が遠い目になりかけたのもまあ無理はないだろう。
準備自体はその打診を受けた、公式の結婚式の時に聞かされていたから、少しずつ準備は進めてきていた。
正式な打診があったのは一月前。
訪問一週間前にその旨先触れがあった。
そして、今日。
竜便が我が家の前に降り立った。
降りてくるのは我が家に似つかわしくない高貴な人達ばかり。
驚いた事にあの跳ねっ返り娘の妹が、陛下の隣に立って、ちゃんと王妃に見える!
あれ、あれは本当に私の妹だろうか? 影武者さんだったりしない?
その感想を抱いたのはどうやら私だけではなかったらしい。
「なあ、ハルシエル。ウチの娘は何処だろうね?」
と、目の前に陛下と、彼にエスコートされるエルシエルの姿があると言うのに父がボソリと呟き、
母と姉は「嘘でしょ、アレがエルシエルだなんて!」と軽くパニックを起こしていた。
「式の間、しばらくこちらで世話になる。面倒をかけるが、どうかご容赦願いたい」
竜王陛下が勿体なくも俺たちに頭を下げた。
「いえ、ウチの娘の事でもありますから! お願いですから頭を上げてください!」
父は涙目である。
「いえ、冗談抜きに。エルシエルをこの世に誕生させ、ここまで育てて下さったご両親とご兄姉、それに暖かく成長を見守って下さったこの地の皆さんには本当に感謝しているのです」
だけど陛下は容赦なく、こちらの方がどうしようもなく恥ずかしくなるようなセリフを真顔で吐く。
下手な攻撃よりダメージは大きい。
「(ウンウン分かるよ?)」
おいぃぃぃ! エルシエル、分かってるなら止めてくれ!
「(ムリ。フォンセはこういう人だから。諦めて慣れて)」
その後エルシエルはウチの使用人に拉致られ、更に闇の国の使用人に追撃を受けて部屋に籠もらされた。
あれはもう式直前まで出してもらえないだろう。
側近たちは素直に部屋に案内されて行ったが、父と俺は陛下に酒の席に誘われた。
酒は陛下が持参したとびっきりの高級品。
これ逃したら私達じゃ一生かかっても呑めないだろう。
酒に釣られホイホイ付いていき、美味い酒に酔いながら。
ふと怖いことを思い出した。
そうだ、私この人の義兄だった。
……うん、忘れよう。
他国の王にその側近を迎え入れなければならないのだから。
その内の一人は実の娘、或いは実の妹なのだが、今となっては彼女さえ他国の王妃となっている。
本来なら国賓扱いで城に滞在すべき面子が揃ってやって来る。
普通ならピリピリしなければならない所、その訪問目的がエルシエルと、闇の竜王陛下との結婚式だと伝えたところ、村人たちは早速式に合わせて祭りの開催の許可を求めてきた。
……男爵家のメンツより余程肝が据わってると、ふと私が遠い目になりかけたのもまあ無理はないだろう。
準備自体はその打診を受けた、公式の結婚式の時に聞かされていたから、少しずつ準備は進めてきていた。
正式な打診があったのは一月前。
訪問一週間前にその旨先触れがあった。
そして、今日。
竜便が我が家の前に降り立った。
降りてくるのは我が家に似つかわしくない高貴な人達ばかり。
驚いた事にあの跳ねっ返り娘の妹が、陛下の隣に立って、ちゃんと王妃に見える!
あれ、あれは本当に私の妹だろうか? 影武者さんだったりしない?
その感想を抱いたのはどうやら私だけではなかったらしい。
「なあ、ハルシエル。ウチの娘は何処だろうね?」
と、目の前に陛下と、彼にエスコートされるエルシエルの姿があると言うのに父がボソリと呟き、
母と姉は「嘘でしょ、アレがエルシエルだなんて!」と軽くパニックを起こしていた。
「式の間、しばらくこちらで世話になる。面倒をかけるが、どうかご容赦願いたい」
竜王陛下が勿体なくも俺たちに頭を下げた。
「いえ、ウチの娘の事でもありますから! お願いですから頭を上げてください!」
父は涙目である。
「いえ、冗談抜きに。エルシエルをこの世に誕生させ、ここまで育てて下さったご両親とご兄姉、それに暖かく成長を見守って下さったこの地の皆さんには本当に感謝しているのです」
だけど陛下は容赦なく、こちらの方がどうしようもなく恥ずかしくなるようなセリフを真顔で吐く。
下手な攻撃よりダメージは大きい。
「(ウンウン分かるよ?)」
おいぃぃぃ! エルシエル、分かってるなら止めてくれ!
「(ムリ。フォンセはこういう人だから。諦めて慣れて)」
その後エルシエルはウチの使用人に拉致られ、更に闇の国の使用人に追撃を受けて部屋に籠もらされた。
あれはもう式直前まで出してもらえないだろう。
側近たちは素直に部屋に案内されて行ったが、父と俺は陛下に酒の席に誘われた。
酒は陛下が持参したとびっきりの高級品。
これ逃したら私達じゃ一生かかっても呑めないだろう。
酒に釣られホイホイ付いていき、美味い酒に酔いながら。
ふと怖いことを思い出した。
そうだ、私この人の義兄だった。
……うん、忘れよう。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
追放シーフの成り上がり
白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。
前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。
これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。
ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。
ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに……
「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。
ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。
新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。
理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。
そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。
ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。
それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。
自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。
そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」?
戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。
【完結】ミックス・ブラッド ~異種族間混血児は魔力が多すぎる~
久悟
ファンタジー
人族が生まれる遙か昔、この大陸ではある四つの種族が戦を繰り返していた。
各種族を統べる四人の王。
『鬼王』『仙王』『魔王』『龍王』
『始祖四王』と呼ばれた彼らが互いに睨み合い、この世の均衡が保たれていた。
ユーゴ・グランディールはこの始祖四王の物語が大好きだった。毎晩母親に読み聞かせてもらい、想いを膨らませた。
ユーゴは五歳で母親を亡くし、父親は失踪。
父親の置き手紙で、自分は『ミックス・ブラッド』である事を知る。
異種族間に産まれた子供、ミックス・ブラッド。
ある者は種族に壊滅的な被害をもたらし、ある者は兵器として生み出された存在。
自分がそんな希少な存在であると告げられたユーゴは、父親から受け継いだ刀を手に、置き手紙に書かれた島を目指し二人の仲間と旅に出る。
その島で剣技や術を師匠に学び、様々な技を吸収しどんどん強くなる三人。
仲間たちの悲しい過去や、告白。語られない世界の歴史と、種族間の争い。
各種族の血が複雑に混じり合い、世界を巻き込む争いへと発展する。
お伽噺だと思っていた『始祖四王』の物語が動き出す。
剣技、魔法、術の数々。異世界が舞台の冒険ファンタジー。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる