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第十章 闇の吸血竜王に嫁入りします!

結婚式前夜〈兄視点〉

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 その日、男爵家は上を下への大騒ぎとなった。

 他国の王にその側近を迎え入れなければならないのだから。
 その内の一人は実の娘、或いは実の妹なのだが、今となっては彼女さえ他国の王妃となっている。
 本来なら国賓扱いで城に滞在すべき面子が揃ってやって来る。

 普通ならピリピリしなければならない所、その訪問目的がエルシエルと、闇の竜王陛下との結婚式だと伝えたところ、村人たちは早速式に合わせて祭りの開催の許可を求めてきた。

 ……男爵家のメンツより余程肝が据わってると、ふと私が遠い目になりかけたのもまあ無理はないだろう。

 準備自体はその打診を受けた、公式の結婚式の時に聞かされていたから、少しずつ準備は進めてきていた。
 正式な打診があったのは一月前。

 訪問一週間前にその旨先触れがあった。

 そして、今日。
 竜便が我が家の前に降り立った。

 降りてくるのは我が家に似つかわしくない高貴な人達ばかり。

 驚いた事にあの跳ねっ返り娘の妹が、陛下の隣に立って、ちゃんと王妃に見える!
 あれ、あれは本当に私の妹だろうか? 影武者さんだったりしない?

 その感想を抱いたのはどうやら私だけではなかったらしい。

 「なあ、ハルシエル。ウチの娘は何処だろうね?」
 と、目の前に陛下と、彼にエスコートされるエルシエルの姿があると言うのに父がボソリと呟き、
 母と姉は「嘘でしょ、アレがエルシエルだなんて!」と軽くパニックを起こしていた。

 「式の間、しばらくこちらで世話になる。面倒をかけるが、どうかご容赦願いたい」

 竜王陛下が勿体なくも俺たちに頭を下げた。

 「いえ、ウチの娘の事でもありますから! お願いですから頭を上げてください!」
 父は涙目である。

 「いえ、冗談抜きに。エルシエルをこの世に誕生させ、ここまで育てて下さったご両親とご兄姉、それに暖かく成長を見守って下さったこの地の皆さんには本当に感謝しているのです」

 だけど陛下は容赦なく、こちらの方がどうしようもなく恥ずかしくなるようなセリフを真顔で吐く。
 下手な攻撃よりダメージは大きい。

 「(ウンウン分かるよ?)」
 おいぃぃぃ! エルシエル、分かってるなら止めてくれ!
 「(ムリ。フォンセはこういう人だから。諦めて慣れて)」

 その後エルシエルはウチの使用人に拉致られ、更に闇の国の使用人に追撃を受けて部屋に籠もらされた。
 あれはもう式直前まで出してもらえないだろう。

 側近たちは素直に部屋に案内されて行ったが、父と俺は陛下に酒の席に誘われた。
 酒は陛下が持参したとびっきりの高級品。
 これ逃したら私達じゃ一生かかっても呑めないだろう。

 酒に釣られホイホイ付いていき、美味い酒に酔いながら。
 ふと怖いことを思い出した。
 そうだ、私この人の義兄だった。

 ……うん、忘れよう。
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