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第九章 後始末と未来の話
闇の神竜ダルク
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「先程ヘイアン様が身罷られ、私フォンセがお役目を引き継ぎました。……そして彼女は私の番。対外的な式はまだですが、闇の竜王の花嫁です」
『花嫁云々はともかく他はとうに知っておる。……あれだけ派手にやった割に立ち直りが随分と早いな?』
「はい、私には素晴らしい番が居ますから。
やらかしは全て私の未熟と至らなさが原因。
叱責はいくらでもお受けしますが、エルシエルにあるのは手柄のみ。
彼女への叱責があるようなら私共の教育が至らなかったのでしょう、私をお咎め下さいますようお願いします」
『責めるつもりはない。“聖女”と名乗る異世界人のやらかしはヘイアンより既に報告を受けている。
他の竜王の失態もな。これはそなたの失態ではなくお前達が神竜と呼ぶ我らに対する分岐点。ヘイアンには、その楔となる役目を与えた』
「楔……?」
『このまま何も対応せずにいれば、そう遠くない未来、世界は崩壊するだろう。
しかしヘイアンは世界はともかく闇の国の民は守りたいと行った。
故に闇の国の大地だけは奴の身を楔に守られるだろう。
ああ、ヤツの遺体は火葬してやるなよ、土葬しろ。でないと楔にならんからな』
エルシエルはその言葉に顔色を悪くした。
エルシエルだって、短慮を起こした竜王と聖女を救いたいとは思わないが、エルシエルの肉親と大事な人は光の国に居るのだ。
フォンセの嫁を止めようとは思わないが、家族や知人を助けたいと思うのは自然な事だろう。
『崩壊を止めたければ、お前達が神竜界と呼ぶ我らの故郷の竜達を説得し、奴らに力を使わせる必要があろう。……あの享楽主義者共が力を貸すとは到底思えぬがな』
「ここで、即答は出来ませぬ」
『そりゃあな。王たるものがそうホイホイ国は空けられぬであろうよ。分かっておるわ。だが忘れるな。少なくとも次代に引き継ぐまでの時間はもう無い事を』
その言葉を最後に、神竜ダルク様は口を閉ざした。
「……よく、覚えておきます」
そして、行きと同じように陛下に連れられ来た道を戻る。
そう、そして陛下の部屋まで――
「あっ、しまったつい……!」
部屋の扉の前で、ようやくフォンセは失態に気付く。
既に外は明るくなり、何となく何かあった事は察しても、まだ何があったか知らない城下の人々は普段通り仕事を始め、街は賑わい始めていた。
が、先程聞いた話によると、昨夜遅くまで自分に代わり仕事をしてくれた上、今朝は酷く体力を消耗させ、殆ど休みなく神竜との謁見に臨ませてしまった。
ゆっくり寝かせてやりたいが、あの女がまだ城に留まっている以上は、警備が薄くなりがちな塔に帰す訳には行かない。
そして自分も、先代の葬儀の前に一眠りしたかった。
フォンセは悶々と自問自答ループにはまり込み、扉の前で凍り付くのだった。
『花嫁云々はともかく他はとうに知っておる。……あれだけ派手にやった割に立ち直りが随分と早いな?』
「はい、私には素晴らしい番が居ますから。
やらかしは全て私の未熟と至らなさが原因。
叱責はいくらでもお受けしますが、エルシエルにあるのは手柄のみ。
彼女への叱責があるようなら私共の教育が至らなかったのでしょう、私をお咎め下さいますようお願いします」
『責めるつもりはない。“聖女”と名乗る異世界人のやらかしはヘイアンより既に報告を受けている。
他の竜王の失態もな。これはそなたの失態ではなくお前達が神竜と呼ぶ我らに対する分岐点。ヘイアンには、その楔となる役目を与えた』
「楔……?」
『このまま何も対応せずにいれば、そう遠くない未来、世界は崩壊するだろう。
しかしヘイアンは世界はともかく闇の国の民は守りたいと行った。
故に闇の国の大地だけは奴の身を楔に守られるだろう。
ああ、ヤツの遺体は火葬してやるなよ、土葬しろ。でないと楔にならんからな』
エルシエルはその言葉に顔色を悪くした。
エルシエルだって、短慮を起こした竜王と聖女を救いたいとは思わないが、エルシエルの肉親と大事な人は光の国に居るのだ。
フォンセの嫁を止めようとは思わないが、家族や知人を助けたいと思うのは自然な事だろう。
『崩壊を止めたければ、お前達が神竜界と呼ぶ我らの故郷の竜達を説得し、奴らに力を使わせる必要があろう。……あの享楽主義者共が力を貸すとは到底思えぬがな』
「ここで、即答は出来ませぬ」
『そりゃあな。王たるものがそうホイホイ国は空けられぬであろうよ。分かっておるわ。だが忘れるな。少なくとも次代に引き継ぐまでの時間はもう無い事を』
その言葉を最後に、神竜ダルク様は口を閉ざした。
「……よく、覚えておきます」
そして、行きと同じように陛下に連れられ来た道を戻る。
そう、そして陛下の部屋まで――
「あっ、しまったつい……!」
部屋の扉の前で、ようやくフォンセは失態に気付く。
既に外は明るくなり、何となく何かあった事は察しても、まだ何があったか知らない城下の人々は普段通り仕事を始め、街は賑わい始めていた。
が、先程聞いた話によると、昨夜遅くまで自分に代わり仕事をしてくれた上、今朝は酷く体力を消耗させ、殆ど休みなく神竜との謁見に臨ませてしまった。
ゆっくり寝かせてやりたいが、あの女がまだ城に留まっている以上は、警備が薄くなりがちな塔に帰す訳には行かない。
そして自分も、先代の葬儀の前に一眠りしたかった。
フォンセは悶々と自問自答ループにはまり込み、扉の前で凍り付くのだった。
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