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第八章 エルシエルの冒険

冷たい村人達

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 馬車に乗って少し楽をしたとはいえ、既にボロボロの足では歩き方が多少不自然になるのは致し方ないだろう。

 ……が。

 「ねぇお母さん、あの人誰? 足、血がいっぱいだよー?」
 「シッ、見ちゃいけません!」

 こんなにも不審者を見る目を向けられるとは思ってもみなかった。

 しかも、いくら探しても質素な造りの民家ばかりで、商店らしい建物は見当たらない。
 人に聞こうにも睨まれて声をかけることさえ出来ない。

 完全に日が沈む頃には流石のエルシエルも諦め、門の前へと舞い戻っていた。

 城の人は最初から良くしてくれていたから、エルシエルは人の信頼を得るのがこれ程難しい事だとは知らなかった。

 故郷でも、物心付く頃には周りは顔見知りだらけで。
 たまに新人さんや転居して来た人を受け入れるのだって、そういえば自分のテリトリーに相手を招き入れての事。

 全くのアウェーな環境は、そう言えばエルシエルは初めてなのだ。

 いきなりぶち当たった壁の高さに泣きたくなる。
 「とにかく寝ないと……。うぅ、お腹空いた……」

 川から離れた今、魚を漁って食べる事も出来ず、店も無いから食料を買うことも出来ない。

 エルシエルは空腹のまま横になった。
 ……草の刈られた地面は草原より固く、寝心地はかなり悪かった。

 せっかく人里に辿り着いたのに、その恩恵が受けられない。

 「大丈夫、ここがイルーナ村なのは確か。なら、馬車で一日かからない所に地方都市ユエルがあるはず」

 そこなら店もあるだろうし、城に助けを求める便りを出せるかもしれない。

 それを希望にエルシエルは眠りに就いた。

 そして翌朝。妙にガチャガチャ言う音で目が覚めた。
 うん、自分でも凄いと思ったけど、あまりに疲れすぎててアレな環境でも熟睡出来てしまったらしい。
 まあ、その分身体が痛くなる呪いを受けたみたいだけど……。元々足とか限界だったからもう、全身痛くてたまらない。

 お腹は空いてるけどもう一日寝てようかな?
 そんな誘惑に駆られる中、音の出どころを探ると、甲冑を着た兵士さんが三人、馬に乗ったまま村の通りを歩いていった。

 ……何だろう?

 ぐんと伸びをして、軽く服に付いたホコリを払い落とす。

 突然村にやって来た兵士さんに、村の人達も何だ何だと家から顔をのぞかせた。

 けど、私はあまりに野次馬根性を発揮して目立ちたくなくて……それに空腹も手伝い動くのが億劫で、兵士が見えなくなった通りをそのままボーッと眺めていたら、いつの間にか兵士達は馬を降りてそれぞれバラけ、村人達に何か聞いて回ってた。

 私には冷たい対応をしていた村人も、兵士が相手とあってか素直に会話に応じていた。

 そして、彼らの一人が私に気づいた。

 「お嬢ちゃん、そこで何してる?」

 当然ながら職質を受けるわけだが……

 「お嬢ちゃん、ちょっとおじさん達と一緒に来て貰おうか?」
 ん、あれ? 何か受け答えを間違ったかな?
 何故か兵士に連行される事になってしまった……。
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