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第七章 竜王会議と異界の娘
打ち捨てられたハコニワ〈ヘイアン視点〉
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にわかに城が慌ただしくなった。
最近ではもう起き上がることすら辛くなって、一日の大半をベッドで過ごすようになった。
次代のフォンセと花嫁は承認を得るため竜王会議に出席している。
となれば、代替わりまで秒読みだ。
あと、少しでこの苦痛も終わる。楽になれる。
そう思っていたんだがな。
「何か騒がしいが、どうした」
寝たきりであっても今は私が竜王だ。
いつも代理で仕事を任せているフォンセは会議に出張っているとなれば私が動かねばなるまい。
側に侍る侍従に尋ねる。
「はっ、実は……」
そして私は竜王会議で起きた茶番を聞かされる事になる。
「ハッ、連中がウチを軽視するのは今に始まった事ではないが、そこまで堕ちるか。
全く何のためにこの苦痛に耐えているのか。馬鹿らしくなるわ。
しかし、あの彼女はフォンセの番だろう?
すぐに捜索隊を編成し探しに行かせろ。
……私は神竜様の所へ行って来る」
固まって動かない筋肉を叱咤しながら、私は城の裏の洞窟へと入る。
城がすっぽり入る大きな空洞に鎮座する、巨大な竜。
私やフォンセは竜人族でも強い方に入るから、竜型をとった姿はかなり大きいと自負している。
……まあ最近の私は弱って縮んでしまったがね。若い頃にはフォンセにも負けない立派な姿で……って、今はそれはどうでも良いか。
「闇の神竜ダルク様」
そんな私達でも神竜様と比べたらまるで大人と子供。
それ程に、神竜様と我ら竜人の間には埋めがたい力の差がある。
「ヘイアンか。……辛そうだな。そろそろか」
「はい、既に新竜王の選定も終わり、新の花嫁も見つかった。この度開かれた竜王会議にてそれらを承認されれば終わる……はずでした」
「はず……とな? これまでそのプロセスに問題があった事はなかったと記憶しているが、何ぞ問題でも起きたか?」
神竜様の問いに、先程聞いたばかりの話を語る。
「……愚かな、と、竜人ばかりを責めるのは……筋違いなのだろうな」
「は?」
「あれらはもう飽いたのだろう。それでも創ってそうそう飽き、放り出してそれっきりの連中に比べれば勤勉な方よ」
神竜様は自嘲を込めて苦笑を浮かべた。
「これは、真なる神からの試練なのかもしれないな。ヘイアンよ、そなたはこの世界の存続を願うか?」
「……正直なところを申し上げても?」
「無論だ」
「私は、私の民が可愛い。我が闇の国の民は命に代えても守りたい。世界が消えて私の民も共に消える事は避けたい。……が、他の国の者に関しては……我らを見下げる者まで身命を削ってまで守りたいとは思えません。どうなろうと知った事ではない、それが偽らざる本音でございます」
「そうか。ならばその生命、楔として使わせてはくれないか?」
「……ご随意に」
そして半月後。私の命は絶え、私の魂は冥府の門を潜った。
遺された肉体を楔として残して。
最近ではもう起き上がることすら辛くなって、一日の大半をベッドで過ごすようになった。
次代のフォンセと花嫁は承認を得るため竜王会議に出席している。
となれば、代替わりまで秒読みだ。
あと、少しでこの苦痛も終わる。楽になれる。
そう思っていたんだがな。
「何か騒がしいが、どうした」
寝たきりであっても今は私が竜王だ。
いつも代理で仕事を任せているフォンセは会議に出張っているとなれば私が動かねばなるまい。
側に侍る侍従に尋ねる。
「はっ、実は……」
そして私は竜王会議で起きた茶番を聞かされる事になる。
「ハッ、連中がウチを軽視するのは今に始まった事ではないが、そこまで堕ちるか。
全く何のためにこの苦痛に耐えているのか。馬鹿らしくなるわ。
しかし、あの彼女はフォンセの番だろう?
すぐに捜索隊を編成し探しに行かせろ。
……私は神竜様の所へ行って来る」
固まって動かない筋肉を叱咤しながら、私は城の裏の洞窟へと入る。
城がすっぽり入る大きな空洞に鎮座する、巨大な竜。
私やフォンセは竜人族でも強い方に入るから、竜型をとった姿はかなり大きいと自負している。
……まあ最近の私は弱って縮んでしまったがね。若い頃にはフォンセにも負けない立派な姿で……って、今はそれはどうでも良いか。
「闇の神竜ダルク様」
そんな私達でも神竜様と比べたらまるで大人と子供。
それ程に、神竜様と我ら竜人の間には埋めがたい力の差がある。
「ヘイアンか。……辛そうだな。そろそろか」
「はい、既に新竜王の選定も終わり、新の花嫁も見つかった。この度開かれた竜王会議にてそれらを承認されれば終わる……はずでした」
「はず……とな? これまでそのプロセスに問題があった事はなかったと記憶しているが、何ぞ問題でも起きたか?」
神竜様の問いに、先程聞いたばかりの話を語る。
「……愚かな、と、竜人ばかりを責めるのは……筋違いなのだろうな」
「は?」
「あれらはもう飽いたのだろう。それでも創ってそうそう飽き、放り出してそれっきりの連中に比べれば勤勉な方よ」
神竜様は自嘲を込めて苦笑を浮かべた。
「これは、真なる神からの試練なのかもしれないな。ヘイアンよ、そなたはこの世界の存続を願うか?」
「……正直なところを申し上げても?」
「無論だ」
「私は、私の民が可愛い。我が闇の国の民は命に代えても守りたい。世界が消えて私の民も共に消える事は避けたい。……が、他の国の者に関しては……我らを見下げる者まで身命を削ってまで守りたいとは思えません。どうなろうと知った事ではない、それが偽らざる本音でございます」
「そうか。ならばその生命、楔として使わせてはくれないか?」
「……ご随意に」
そして半月後。私の命は絶え、私の魂は冥府の門を潜った。
遺された肉体を楔として残して。
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