62 / 119
第七章 竜王会議と異界の娘
陛下と一緒
しおりを挟む
「こちらがお部屋になります。お食事はこちらにお運び致します。くれぐれも案内なく外に出よう等とは考えない様お願いします」
竜便から降りた私達が案内された部屋は――
「……使用人部屋?」
それも個室ではない、大部屋の。
男爵家の令嬢である私でも良く言って質素だと思うような部屋。
選考会の時に用意してもらった部屋より遥かに劣る部屋を用意された。
婚姻前の今、まだ男爵家の娘である私だけならまだしも、一国の王とその側近、しかも公爵家のご当主を通す様な部屋では決してない。
私の家を訪ねて下さったフィリップ様とアスモ様がお泊りになった村の宿よりは広さは若干マシかもしれない。
だけど、清潔さならあの宿の方が上だったはずだ。
あまり日の入らない、ジメッとした部屋。
本来日の出ない闇の国の昼間より暗い部屋。
しかも極めつけが。
「……えぇと、ベッド、足りませんよね?」
「アスモは床で寝てもらうとしても、それでもまだ一つ足りませんね」
「あの、私も床で……」
「何をおっしゃいます。我らの大事なエルシエル様を床で寝かせるなどありえませんよ。陛下と一緒に寝て下さい」
「へ、婚姻前なのですが?」
「陛下、良いですよね? 勿論婚姻前のお嬢様に手を出すなんて紳士らしからぬ真似はなさいませんよね?」
「う、うむ……」
「ではこれで解決ですね」
……宰相様のゴリ押しで、今夜は陛下と一緒のベッドで寝る事になってしまった。
嫌……とは言わないけど気恥ずかしいじゃ済まないくらい、今夜は眠れる気がしない。
……しなかった、のだが。
「え、何これ」
運ばれてきた昼食に、思わず二度見してしまった。
それは、男爵家で普段食べる食事より尚質素、どころか男爵家の使用人の食事より質素な食事だった。
「パンとスープとチーズだけ? この、農業大国と言われるグラン・グノーシスで?」
流石にパンは焼き立てだし、スープも具はしっかり入っているし味もしっかりついているけど。
どう考えても一国の王に出す食事ではない。
災害時などの緊急時であればいざしらず、この平時にこの扱いとは。
「我々は嫌われ者なのですよ」
「え?」
「我々は毒を撒き散らし、少女から無理やり血を貪る野蛮な国の住人。それが、多くの者の認識なのです」
何を、言っているのだろうか?
エルシエルは咄嗟に理解できなかった。
彼らの奮闘がなければ、世界は滅んでしまうのに?
「勿論理屈としては理解していますよ、竜王達はね。
……ですが、歴代の竜王が恐れる少女に犠牲を強いたのは事実。
そして闇の国にて負のエネルギーを常に浴びる我らからわずかに漏れる負のエネルギーが、他の国の民にプレッシャーを与える事も事実。
故に、嫌われ者のレッテルを剥がすのはなかなかに難しくて」
その宰相様の言葉を否定する者は、誰も居なかった――
竜便から降りた私達が案内された部屋は――
「……使用人部屋?」
それも個室ではない、大部屋の。
男爵家の令嬢である私でも良く言って質素だと思うような部屋。
選考会の時に用意してもらった部屋より遥かに劣る部屋を用意された。
婚姻前の今、まだ男爵家の娘である私だけならまだしも、一国の王とその側近、しかも公爵家のご当主を通す様な部屋では決してない。
私の家を訪ねて下さったフィリップ様とアスモ様がお泊りになった村の宿よりは広さは若干マシかもしれない。
だけど、清潔さならあの宿の方が上だったはずだ。
あまり日の入らない、ジメッとした部屋。
本来日の出ない闇の国の昼間より暗い部屋。
しかも極めつけが。
「……えぇと、ベッド、足りませんよね?」
「アスモは床で寝てもらうとしても、それでもまだ一つ足りませんね」
「あの、私も床で……」
「何をおっしゃいます。我らの大事なエルシエル様を床で寝かせるなどありえませんよ。陛下と一緒に寝て下さい」
「へ、婚姻前なのですが?」
「陛下、良いですよね? 勿論婚姻前のお嬢様に手を出すなんて紳士らしからぬ真似はなさいませんよね?」
「う、うむ……」
「ではこれで解決ですね」
……宰相様のゴリ押しで、今夜は陛下と一緒のベッドで寝る事になってしまった。
嫌……とは言わないけど気恥ずかしいじゃ済まないくらい、今夜は眠れる気がしない。
……しなかった、のだが。
「え、何これ」
運ばれてきた昼食に、思わず二度見してしまった。
それは、男爵家で普段食べる食事より尚質素、どころか男爵家の使用人の食事より質素な食事だった。
「パンとスープとチーズだけ? この、農業大国と言われるグラン・グノーシスで?」
流石にパンは焼き立てだし、スープも具はしっかり入っているし味もしっかりついているけど。
どう考えても一国の王に出す食事ではない。
災害時などの緊急時であればいざしらず、この平時にこの扱いとは。
「我々は嫌われ者なのですよ」
「え?」
「我々は毒を撒き散らし、少女から無理やり血を貪る野蛮な国の住人。それが、多くの者の認識なのです」
何を、言っているのだろうか?
エルシエルは咄嗟に理解できなかった。
彼らの奮闘がなければ、世界は滅んでしまうのに?
「勿論理屈としては理解していますよ、竜王達はね。
……ですが、歴代の竜王が恐れる少女に犠牲を強いたのは事実。
そして闇の国にて負のエネルギーを常に浴びる我らからわずかに漏れる負のエネルギーが、他の国の民にプレッシャーを与える事も事実。
故に、嫌われ者のレッテルを剥がすのはなかなかに難しくて」
その宰相様の言葉を否定する者は、誰も居なかった――
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界のリサイクルガチャスキルで伝説作ります!?~無能領主の開拓記~
AKISIRO
ファンタジー
ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。
だがそこには問題があり。
まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。
ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。
この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。
ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。
領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。
それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。
ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。
武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。
隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。
ガルフの苦難は続いていき。
武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。
馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。
※他サイト様にても投稿しています。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
ウロボロス「竜王をやめます」
ケモトカゲ
ファンタジー
100年に1度蘇るという不死の竜「ウロボロス」
強大な力を持つが故に歴代の勇者たちの試練の相手として、ウロボロスは蘇りと絶命を繰り返してきた。
ウロボロス「いい加減にしろ!!」ついにブチギレたウロボロスは自ら命を断ち、復活する事なくその姿を消した・・・ハズだった。
・作者の拙い挿絵付きですので苦手な方はご注意を
・この作品はすでに中断しており、リメイク版が別に存在しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる