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第六章 闇の国の王妃教育
陛下とお出かけ
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「……終わった」
陛下が山がきれいに片付いた自分の机を眺め、呟いた。
「今日の分どころか明日の分まで終わったぞ」
自分で言っていて、しかし、その言葉が信じられないとばかりに机の上を撫で回している。
「エルシエル様の奮闘のおかげですね」
「ああ。エルシエルが居なければ、私はまた夕食後にこの部屋に舞い戻り、今日の分の仕事に追われていただろう」
少し遠い目になりながら、陛下は断言した。
「だが、終わった。お陰で明日は時間が作れる。エルシエル、城下に出てみないか?」
「え?」
「城下町に行きたくはないか?」
ここしばらく勉強漬けの毎日だった。
たまの休みには料理をしてみたりもしたけど、基本城――それもあの宮殿に缶詰め状態だった。
「行ってみたいです!」
「なら決まりだな。良いだろう、レイン?」
「ええ。城以外の我が国の姿を、そろそろエルシエル様にも見ていただく必要がありましたしね。護衛を手配しておきますよ」
こうして急遽、陛下とのお出かけが決定したのだった。
外出の支度をして塔を出ると。
塔の前で陛下がお出迎えしてました。
「え、あの、もしかしなくてもお待たせしました!?」
「いや、そんな事はない。さあ行こう」
陛下は城の前の広場へ向かい――
「そう言えば城下へはどうやって……って、え!」
不意に隣を歩いていた陛下の姿が溶け、視界が黒に染まる。
何事かと上を仰ぎ見れば、大きな黒い竜がこちらを見下ろしていた。
「え、え、フォンセ陛下!?」
『そうだ。馬車では道が悪いし遠回りだ。こうして飛んで行けばすぐ着く。さて、エルシエルは背に乗るのと手で持ち運ばれるのとどちらが良い?』
頭の中に直接陛下の声が聞こえる。
竜人族でも特に力の強い者は竜形態に変化出来ると聞いたことはあったが、実際見るのは初めてなエルシエルはあんぐり口を開けた。……お行儀が悪いと知っていても、止められなかった。
光の竜は金の鱗をしていると聞くが、フォンセの鱗は艷やかな黒で、何と言うか、スタイリッシュだ。
背に乗せてくれると言うなら乗ってみたいけど、いきなりでは落ちかねない。
「手で運んでください……」
『了解した』
ふわりと、鋭い爪の付いた手で包み込まれる。
手のひらの鱗はひやりと冷たく、つるつると滑らかな手触り。
ほぅ、と鱗の触り心地を楽しんでいると、ふわりと竜便に乗った時に感じた浮遊感に襲われ、指の隙間から景色を眺める。
一気に高度を上げたフォンセの手の中は、風もなく寒くもない。
何なら竜便より乗り心地は良いかもしれなかった。
陛下が山がきれいに片付いた自分の机を眺め、呟いた。
「今日の分どころか明日の分まで終わったぞ」
自分で言っていて、しかし、その言葉が信じられないとばかりに机の上を撫で回している。
「エルシエル様の奮闘のおかげですね」
「ああ。エルシエルが居なければ、私はまた夕食後にこの部屋に舞い戻り、今日の分の仕事に追われていただろう」
少し遠い目になりながら、陛下は断言した。
「だが、終わった。お陰で明日は時間が作れる。エルシエル、城下に出てみないか?」
「え?」
「城下町に行きたくはないか?」
ここしばらく勉強漬けの毎日だった。
たまの休みには料理をしてみたりもしたけど、基本城――それもあの宮殿に缶詰め状態だった。
「行ってみたいです!」
「なら決まりだな。良いだろう、レイン?」
「ええ。城以外の我が国の姿を、そろそろエルシエル様にも見ていただく必要がありましたしね。護衛を手配しておきますよ」
こうして急遽、陛下とのお出かけが決定したのだった。
外出の支度をして塔を出ると。
塔の前で陛下がお出迎えしてました。
「え、あの、もしかしなくてもお待たせしました!?」
「いや、そんな事はない。さあ行こう」
陛下は城の前の広場へ向かい――
「そう言えば城下へはどうやって……って、え!」
不意に隣を歩いていた陛下の姿が溶け、視界が黒に染まる。
何事かと上を仰ぎ見れば、大きな黒い竜がこちらを見下ろしていた。
「え、え、フォンセ陛下!?」
『そうだ。馬車では道が悪いし遠回りだ。こうして飛んで行けばすぐ着く。さて、エルシエルは背に乗るのと手で持ち運ばれるのとどちらが良い?』
頭の中に直接陛下の声が聞こえる。
竜人族でも特に力の強い者は竜形態に変化出来ると聞いたことはあったが、実際見るのは初めてなエルシエルはあんぐり口を開けた。……お行儀が悪いと知っていても、止められなかった。
光の竜は金の鱗をしていると聞くが、フォンセの鱗は艷やかな黒で、何と言うか、スタイリッシュだ。
背に乗せてくれると言うなら乗ってみたいけど、いきなりでは落ちかねない。
「手で運んでください……」
『了解した』
ふわりと、鋭い爪の付いた手で包み込まれる。
手のひらの鱗はひやりと冷たく、つるつると滑らかな手触り。
ほぅ、と鱗の触り心地を楽しんでいると、ふわりと竜便に乗った時に感じた浮遊感に襲われ、指の隙間から景色を眺める。
一気に高度を上げたフォンセの手の中は、風もなく寒くもない。
何なら竜便より乗り心地は良いかもしれなかった。
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