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第五章 嫁入り支度は慌ただしく

竜王様のご挨拶

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 「は? お祭り?」

 「うん、研究所と村から陳情書が上がってきた。お前の見送りがしたいと。……それに伴って露店の許可が欲しいそうだ」
 「お兄様、それ、私を理由にしてお祭りがしたいだけの人達よね?」
 「……だろうな」

 今週末には私と私の荷物を闇の国へ運ぶ竜便がこの屋敷の前にやって来る事になっている。

 「まぁ、竜便なんて来ればどうせ大騒ぎなんだ。どうせ騒ぐなら始めから祭りで賑わせておけば苦情も来るまい」
 と、兄の一存で祭りが決定してしまった。

 題して「エルシエル嬢お見送り祭り」。何じゃそりゃ。

 許可が出ると、たちまち通りに屋台の骨組みが組まれ始める。

 私の荷造りと、村人達の屋台の準備。
 どちらが早く終わるか、競争でもないのに何か負けちゃいけない気がするのは何でだろうね?

 「お嬢様の気のせいです」

 そして、お祭りの二日前。

 「エルシエル!」
 「お、お姉様!?」

 嫁いだ姉が急遽やって来た。

 「ど、どうし……」
 「アンタ! 聞いたわよ、闇の竜王陛下の花嫁に選ばれたって!」
 「は、はい……」

 「……ガセネタじゃないのね」

 「明後日には闇の国へ出発します」
 「全く……馬鹿……。結婚出来ないんじゃないかって心配してたら突然闇の竜王陛下と結婚て……。私の義弟が闇の竜王陛下……」
 「……忘れてた。するとなると俺は竜王陛下の義兄になるのか?」
 兄がまたしても顔色を悪くした。

 「まぁ、結婚はまだ先だし。暫くは勉強漬けになる予定だし」

 「……それで、外の騒ぎは何?」
 「祭りの準備中だ」
 その答えに姉は呆れかえる。

 「はぁ、本当に相変わらずね……」

 部屋の片付けはそう大変ではなかったけど、研究所の片付けはかなり難航した。
 一日の大半は研究所で過ごしてたからな……。

 ドレスも宝石も最低限しか持たないけど、研究の資料や道具は部屋を埋め尽くす程あるから……。

 正直、全て片付いたのは前日の夜の事で、ギリギリセーフも良い所だった。

 ホッとして竜便の到着を待っていた当日。
 竜便でやって来たまさかの人に驚かせられるとは思いもしなかった。

 「フォンセ陛下!?」

 「うむ。仕事がある内は行かせぬと宰相が申すので、死ぬ気で仕事を片付けてきた。娘を嫁に貰うのに、ご家族に挨拶もせずでは申し訳ないのでな。……しかし賑やかだな?」

 「は、はい……。私の見送りにかこつけてお祭りしたい人が多くて、ですね……」
 「そうか。それではそちらにも挨拶すべきか?」
 「い、いえ、平民ですので後で手でも振っていただければ十分です!」

 「ハハハ、陛下。ここの民は皆善良で愉快な者たちでしたぞ。貴族の礼儀こそ無いが、流石はエルシエル様を育んだ地と感心致しましたぞ!」

 「むう。そなた等ばかり楽しんでないか? ……まあ、今回の主目的はご家族への挨拶だしな。それでエルシエル、ご家族は――」

 あ、皆仲良く揃って凍ってた……。か、解凍しなきゃ!
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