闇の吸血竜王に嫁入りします！

第五章 嫁入り支度は慌ただしく

研究員とのご挨拶

　「えーと、本気で来るんですか？
　本邸より外見は広いですが、中はとっ散らかってるんで本邸より狭いし汚いですよ？
　研究員の大半は平民なので礼儀もなってませんので、無礼を働く可能性も低くないんですが……」

　と、先にお断りを入れる。これは絶対だ。大事な研究員を守る為に。

　「私共が見たいと我儘を言っているのです。お忍び扱いで構いませんので、貴族に対する礼儀は気にせずともよろしいですよ」

　ならば、と意を決して研究所の扉を開いた。

　まず出迎えてくれるのは。

　「あっ、お嬢様！　お帰り～、もしかしなくともやっぱりダメだったんだよね、お見合い会。うん、私達の永遠独身同盟は永遠だよね！」

　受付係で私の悪友で幼馴染のクララ、ちなみに五体満足超健康優良児で足も別に悪くない。ただ……

　「あのー、ゴメン。私、竜王陛下の嫁に選ばれたから、近々闇の国に、引っ越さなきゃならないから、研究所も……」

　「……え？」
　天然な笑顔を貼り付けるクララは怖い。
　「は？　エルシエルお嬢様が、結婚？」

　暫く固まった後、

　「キャー、天変地異の前触れよ！　皆研究資料を守りなさい！」

　警報機もかくやという大声でエマージェンシーコールを告げる。

　直後。

　「ナニぃ！　何だ、火事か地震か雷か親父か、どれだ！」
　「アホウ、雲の上の光の国に地震があるか！　それで何だ、天変地異の前触れって！」

　「お、お嬢様が！　お嬢様が結婚するって……！」

　「「「「「な、何ぃ!?」」」」」

　「マジか、ガセネタじゃねぇのか？」
　「相手は！　相手は誰だ？」
　「てかお嬢様闇の国に行ってたんじゃ？　闇の国の技術は盗んでこれましたかい？」
　「あー、選考会に行くとかなんか……。結婚するとは聞いてなかったが……まさか……」
　「あの、お嬢様の後ろにいるのもしかして闇の竜人か？」
　「するってぇと、まさかお嬢様の結婚相手って……」

　「あー、うん。竜王陛下だよ」

　「「「「マ・ジ・か！」」」」

　「超大物一本釣りじゃねえか。お嬢様、騙されてねぇか？」
　「騙されてないわよ、失礼ね！」

　「ふ、ふふふふ、私の同盟相手が……」
　「あ、ヤバい。クララがヤバい。総員、研究資料を守れ！」

　「お嬢様の純潔は私が守るぅ！」
　「クララ！　あんたはいい加減その拗らせをなんとかしなさい！」

　暴走を始めたクララは止まらない。
　研究員達には常識である。

　「待てぇぇ！　正気に戻れぇ！」
　「既に限りなく正気よ！　てか何それ、また新作武器なの？」
　「ふふふ、私もタダの受付嬢じゃありませんから。戦って守れる超有能受付嬢ですから！」

　……研究所では、たちまち先日の第二課題を彷彿とさせる混沌とした追いかけっこが始まった。

　「は、ははは……。なるほど、お嬢様はなるべくしてああなったと。……よく、分かりました」
　蚊帳の外に出された闇の国の大臣たちは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。