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第五章 嫁入り支度は慌ただしく

家族への報告

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 男爵家のマナーハウスが見えてきたのは、昼前の事だった。
 宿を少し早めに出たかいはあったようだ。

 「あれが、プランツ家です」

 屋敷としてはあまり大きくない。
 むしろ隣接している研究所の方が存在感がある。

 「その隣が研究所、私の今の勤め先です」

 「――長閑な所ですな」
 「ええ。王都の貴族にはあまり好かれませんが、私は好きです」

 そしていよいよ馬車は屋敷の玄関先で止まる。

 ……外まで聞こえる慌てた足音。
 私が言える事じゃ無いのは分かっていても、恥ずかしい。……ごめんなさい母上、たった今ようやく理解しました。

 玄関の扉が勢いよく開く。

 「エルシエル!」

 家族が総出で飛び出してきた。
 皆でぎゅうぎゅう抱きつくものだから、苦しくてたまらない。

 ほら、皆お客様が居るから!
 闇の国の重鎮さんだから!
 お願いだから私よりお客様を構って下さい!

 「なるほど、家族ですな」
 「ええ。お嬢様はなるべくしてああなったのですな」

 あ、風評被害。

 風評被害に厳しいお母様がまず最初に正気に戻った。

 「も、申し訳ございません! 只今応接間にご案内させていただきます!」

 そして正気に戻ったお母様に腿をつねられたお父様が正気に戻され、青ざめながら平身低頭。

 「こ、こちらへどうぞ。……皆、おもてなしを」

 お父様に頭上に圧力をかけられ無理矢理頭を下げさせられたお兄様が最後に正気に帰り、目が笑っていない笑顔で私を振り返った。

 「エルシエル、どういう事かな?」

 「あー、うん。私、フォンセ陛下の婚約者になったから」

 「はい。我らはその件についての報告と、これからの事についてお話する為に参りましたので」

 「……とにかく、まずは中へ。いつまでも立ち話もないでしょうし。……立ち話で済む話でもなさそうですし」

 「ええ。ではお言葉に甘えさせていただきます」

 ……男爵家の応接間は、城とは比べ物にならない程狭い。
 いやそもそも城と比べる方が間違ってるんだろうけど、つい一昨日まで過ごした客間のリビングの方が広いってどうよ?

 「その、あまり広くないですし綺麗でもないのですが……」
 「いえいえ、きちんと掃除が行き届いていて、良いお家だと思いますよ。流石エルシエル様のご実家ですな」

 だけど、フィリップ礼部大臣はそう褒めてくれる。
 ……私におべんちゃら言っても何も出ないんだけどなぁ。

 狭い屋敷ではすぐに目的の部屋に到着してしまう。

 「さて、改めまして名乗らせていただきましょうか。
 私はフィリップ=ブレイズ、礼部大臣を務めさせていただいております、伯爵家当主でございます。
 こちらはアスモ=ファニール、軍務大臣で公爵家当主。
 共に本日は闇の国の新竜王陛下の名代として参っておりますので、私共の爵位は忘れて下さって構いません」

 そして、爆弾は落とされる。

 「プランツ男爵。貴殿の息女を我らが陛下の生涯の伴侶として迎え入れたく存じます」
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