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第一部 第一章 花嫁選びの宴

男爵家のタウンハウス

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 ウチはしがない男爵家。

 それでも一応貴族の末端で、当主のお父様はごくたまに王城に赴く用事が出来る事もあるし、城に用は無くても王都に来なくちゃいけない用事はそれなりにある。

 そんな時の為の滞在場所として、王都にもごく小さな屋敷を所有していた。

 と言っても男爵家のタウンハウスだ。裕福な商家の屋敷に広さで負ける程度の屋敷。
 だけど、付属の研究所はかなり大きい。
 マナーハウスの方にも研究所はあるけど、こちらは植物栽培などの実験を伴わず、最新の書物の揃う王都で研究した方が捗る研究者さん用の施設だ。
 マナーハウスのは巨大な温室や畑なんかもあってかなり広いからね。家畜も飼ってるし。
 
 まあそれはそれとして。

 「……いよいよ明日なのね。はぁ、憂鬱だわー」
 「……王都の宝飾店は気合の入ったご令嬢達の御用聞きで大忙しの様ですが。そんな事では他のお嬢様方に押し負けますよ」

 「別にイケメン狙いじゃないし。売れ残りで十分だし」
 「……売れ残る理由がお顔や身分でない場合もありますよ? それこそお嬢様が忌み嫌う金食い虫とか」

 「そ、その辺は上手く避けて……」
 「……ドレス選びも適当で、結局奥様に内緒で私に選ばせたお嬢様の目がそれ程肥えているとは思えません。お嬢様に目利きが可能なのは農業関連に限るでしょう?」
 「うっ……」

 「ほらほら、せめて見劣りはしないようマッサージ致しますからさっさと横になって下さいね」
 と、ベッドに転がされ香油を全身に塗ったくられる。

 「う~、くすぐったい……」
 「我慢する!」

 ちょっと痛いくらいの勢いのままマッサージを終えたカレンは。

 「明日は起きたら夜会のための身支度を始めますからね。朝は少し遅めに起こしに参りますが、覚悟なさって下さいね……?」

 そう言って自分の部屋へと帰って行った。

 これが伯爵家くらいになると侍女も複数人ついてシフトをローテーションして夜番とかしてくれるらしいけど、ウチはカレンしか居ないから、夜中に喉が渇いたら自分で水を汲んで飲むのだ。

 男爵の令嬢なんか逞しくないとやってられない。
 キラキラしい夜会なんて、それこそ竜人様達だけで楽しんでれば良いのに。
 何故かそれに参加したがる下級貴族が一定数居て、結果定期的に夜会が開かれている。
 大半は断れば済む催しなんだけど。

 「何で今、王家で夜会を……?」

 王都で夜会なんて王子王女様の婚約或いは結婚式や竜王の戴冠式みたいな特別な時に行われるもの。

 けど、そんな噂は聞いたことないぞ……?
 男爵家界隈がいくら田舎だからってそんな重要な噂が流れて来ないなんておかしい。

 「あぁ。本当に面倒……。行かなくて済むなら一、二食食事を返上しても良い」

 私は憂鬱な気分になりながら、何とか眠ろうと努力を始めていた。
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