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第一部 第一章 花嫁選びの宴
プランツ男爵一家の晩餐
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カレンから渡された、一通の封書。
押された家紋は見間違い様も無く、この国の竜王家、ライトランド家の家紋だった。
しがない男爵風情が王宮に招かれるなど滅多にあることでは無い。
滅多に無いこと故に、断るなんてあり得ない。
「それはそうだろう。今回の夜会の招待状はこの国に存在する貴族家全ての家長及び家督継承候補第一位の者、そして未婚の結婚適齢期の娘に送られていると聞く」
既に嫁いだ姉でプランツ家長女シェルティを除き、父アルシエルに、子爵家から嫁いできた母エルシー、兄で長男のハルシエルが勢揃いした食卓で父はそう頷いた。
「当然ながら私にも招待状が届いた。お前たちの所にも来ているだろう?」
白身魚のムニエルにナイフを入れていた兄が手を止め答える。
「はい。僕は婚約者と出席しますね」
「ええ、ハルシエルはナタリーさんのエスコートをしっかりね。……問題は貴女よ、エルシエル」
はぁ、と困ったようにため息を吐いて見せる母。
「シェルティは大人しい子で良いお家のご子息に是非にとプロポーズされてもう嫁いでいるのに貴女ときたら……、貴女は女の子なのよ、少しは着飾る事に興味を持ちなさい」
とお小言を頂戴した。
「結婚後も私に研究を続けさせてくれる旦那様なら、年齢も容姿も身分も収入額も問わないと、何度もそう申し上げているではありませんか。金遣いが極端に荒かったり暴力的な方でなければ、愛人を囲うことも目を瞑りましょう。……それで、婚約者候補の男性はいらっしゃるのですか?」
「まともな貴族の殿方は妻が外で働く事を良しとしません!」
「いや、ですから研究費を食い荒らす金食い虫や暴漢の類でなければ他は気にしませんて……」
「貴女は気にしなくとも私のお友達は気にするの! おかしな所へ娘をやったと噂されたらどうするの!」
「まぁまぁお母様。夜会の誘いや茶会の誘いもつれなく断ってばかりのエルシエルも、この夜会は断れません。普段は縁がなくとも実際にお会いすれば気になる異性が居るやもしれませんよ」
「……はぁ。あまり期待できないけど、賭けるしかないのかしらね。とにかくそういう訳だから。明後日仕立て屋を呼んであるから。夜会用のドレスを仕立てなさい。逃げるんじゃないわよ」
……面倒臭い。ドレスなんてそう枚数持ってないけど、最近はちょっと前までみたく次々サイズが合わなくなるなんて事も無くなったんだから、前に仕立てたので良いじゃない、って思うけど。
そりゃ頻繁に夜会に出てるなら着回しドレスはアウトだろうけど、私は夜会なんて姉様の結婚式以来だもの、もう覚えてる人も居ないでしょ。
けど、先手を売って釘を刺されて逃げ道を塞がれた私は、渋々苦行の時間を受け入れるしかなかった。
押された家紋は見間違い様も無く、この国の竜王家、ライトランド家の家紋だった。
しがない男爵風情が王宮に招かれるなど滅多にあることでは無い。
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「それはそうだろう。今回の夜会の招待状はこの国に存在する貴族家全ての家長及び家督継承候補第一位の者、そして未婚の結婚適齢期の娘に送られていると聞く」
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「はい。僕は婚約者と出席しますね」
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はぁ、と困ったようにため息を吐いて見せる母。
「シェルティは大人しい子で良いお家のご子息に是非にとプロポーズされてもう嫁いでいるのに貴女ときたら……、貴女は女の子なのよ、少しは着飾る事に興味を持ちなさい」
とお小言を頂戴した。
「結婚後も私に研究を続けさせてくれる旦那様なら、年齢も容姿も身分も収入額も問わないと、何度もそう申し上げているではありませんか。金遣いが極端に荒かったり暴力的な方でなければ、愛人を囲うことも目を瞑りましょう。……それで、婚約者候補の男性はいらっしゃるのですか?」
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「いや、ですから研究費を食い荒らす金食い虫や暴漢の類でなければ他は気にしませんて……」
「貴女は気にしなくとも私のお友達は気にするの! おかしな所へ娘をやったと噂されたらどうするの!」
「まぁまぁお母様。夜会の誘いや茶会の誘いもつれなく断ってばかりのエルシエルも、この夜会は断れません。普段は縁がなくとも実際にお会いすれば気になる異性が居るやもしれませんよ」
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そりゃ頻繁に夜会に出てるなら着回しドレスはアウトだろうけど、私は夜会なんて姉様の結婚式以来だもの、もう覚えてる人も居ないでしょ。
けど、先手を売って釘を刺されて逃げ道を塞がれた私は、渋々苦行の時間を受け入れるしかなかった。
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