上 下
181 / 192
勇者Side - Spin off - ④

δ-3 レッスン開始

しおりを挟む
    ヒョオ、と音を立てて風が吹き抜ける。
    赤茶けた大地に僅かな雑草が生えるのみの広野に立つ私たち二人。
    私はかつての記憶通りに力を振るった。
    まずは範囲指定。……これはおおよそで構わない。視界に入るだけ全部、なんて指定も可能なくらいとてもルーズな仕様になっているから。
    それから振るう力を決めて――放つと土地が一瞬まぱゆく光る。
    これでおしまい。
    使う力が少ないと、既に育っている作物の出来を良くする程度の能力だけど、全力で使うとこの寂れた土地でも瞬く間に草原に変わる。
   聖女とはそれ程までの力を使える存在なのだ。
   「うーん、魔法使うみたいにすればいいのかしら?」
    ヒカルは取り敢えず見たままに力を振るう――が、範囲指定はともかく力の加減が上手くいかずに不発に終わった。
    「……ん?    あれ、失敗した?」
    「――適当な力のこめ方だと失敗するみたいです。ある程度段階があって、その規定値で力を使わないと失敗するんですよ」
    「なるほど……」
     と、納得したように頷き、それから続けて術を発動させようとし。一度目は失敗、二度目も失敗。三度目、四度目でまず成功させた。……けど、喜ぶ間もなくすぐに五度目……失敗。六度目、七度目……失敗。八度目でまた成功。……さっきの成功より力が強い。
    そうして少しずつ力を上げて、成功する力の量を感覚で覚えようとしているらしい。
    「え、まさか今日一度で覚えようとしてる?    んな無茶な」
    「……うん。流石に全部は無茶だろうけど、出来る限りはね、やらないと。もう日もないし」
    ヒカルは何でもない事の様に言うけど、私はこの力を使いこなすのに半年はかけた。それを、今日一日でどれだけ追い縋る気なの!
    吸血鬼になった様だけど、少しばかり人間よりかは体力もアップしているらしいからって……これはやり過ぎでは?
    「はは、流石……。主様クオリティは健在ですか」
    レイが微妙に笑顔をひきつらせながらポツリと呟く。
    「彼女、ずっとこんな感じで訓練を続けていたんですよ。剣術も魔術も、冒険者としてのアレコレもね。なんせスパルタなコーチが専属でついてましたから」
    モモコはヒカルを改めて見やる。
    「その専属コーチが離れたなら、少しくらいは楽をしようと思っても仕方ないのに。彼女らはむしろより厳しい訓練を己に課しました。――その結果はお嬢さんが一番良くご存知でしょ?」
    ……悔しいけど。勇者パーティーはいとも簡単に彼らに屈してしまった。勇者パーティーの誰も、こんな訓練をしている者は居なかったから。
    「……でも、流石にもう終わりにしないと」
    「んじゃ俺はアイツ呼んでくるから。モモコはヒカルをお願いするよ」
    「あっ、面倒な事を人に押し付けて!」
    「あはははは~」
    逃げ回る男とそれを追いかける女。
    それは今後しばしば見られる様になる光景だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫
恋愛
孤児のルネは聖女の力があると神殿に引き取られ、15歳で聖女の任に付く。それから3年間、国を護る結界のために力を使ってきた。 しかし、彼女の婚約者である第二王子はプライドが無駄に高く、平民で地味なルネを蔑み、よりよい相手を得ようと国王に無断で聖女召喚の儀を行ってしまう。 高貴で美しく強い力を持つ聖女を期待していた王子たちの前に現れたのは、確かに高貴な雰囲気と強い力を持つ美しい方だったが、その方が選んだのは王子ではなくルネで… 平民故に周囲から虐げられながらも、身を削って国のために働いていた少女が、溺愛されて幸せになるお話です。 世界観は独自&色々緩くなっております。 R15は保険です。 他サイトでも掲載しています。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

処理中です...