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外伝 - 追放勇者の黒歴史 -

第七話 冒険者になりたくて

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     陛下に拾われてすぐは、流石に俺の身体も心もぼろぼろで、その上俺は自分が吸血鬼になったという事実をよく理解できてなくてな。
    半年くらいは城の奥に部屋を貰って、医者の治療を受けたりカウンセリングを受けたりさせられて、大半をベッドの上で過ごしていた。
    体の治療の目処がついた頃、陛下の計らいで鑑定を受けさせて貰った。――俺に魔物使いの職能があると知った陛下から、最初の一体を賜った。
    ……それが蒼夢との出会いだった。
   まあ、スライムだからな。ほぼペットみたいな扱いだったが、その頃から剣術や勉強の教師がやって来て色々教えてくれるようになって忙しくなった俺の良い遊び相手ではあった。
    剣については知っての通りそこそこレベル止まりだったが、幸い頭の出来はそう悪くなかったお陰で貴族が学ぶ教養位はすぐに覚えた。
   城で良いもん食わせて貰えてるから肉付きも良くなって体力も付いた。
    で、陛下から内々に空位になった侯爵位を継ぐ気はあるか、とある日訪ねられた。
    陛下は俺にとっては恩人だ。陛下が望むなら……と答えはしたが、色々学ぶ内に一つやりたい事が出来てな。少しだけ待って欲しいとも伝えた。
    ――冒険者として旅をして、世界を知りたい、と。
    幼い頃は小さな田舎村から出たことはなく、その後は地下室に閉じ込められ、保護された後も城で何不自由なく暮らしてきて……。俺は、酷く狭い世界しか知らなくて、書物に記される外の世界に憧れた。
    陛下は「自分の血肉に出来る経験を積んで来い」と、初期投資に必要な額だけ俺に渡して一人で城から放り出してくれた。「気が済んだら戻って来い」とだけ言って、な。
    俺は、王都のギルドで冒険者登録を済ませ、取り敢えず適当なパーティーに入れて貰おうとした。
    俺より少し年嵩の先輩パーティーにいくつか声をかけて、OKを貰えたところに入った。
    ……そのパーティーについて調べたりとか、そういう知恵もまだ無かった俺が、初めて受けた依頼は湿地帯に生える薬草採取。俺は、雑用係としてついていく話になってたんだがな。
    件の湿地帯は蜥蜴人リザードマンのナワバリど真ん中。安全に採取するなら囮は必須だ。
    「え、ちょっと待って。何か嫌な予感がするんだけど」
    「だろうな。今の俺なら『ふざけんな』で蹴飛ばす話だ」
    「じゃあやっぱり……」
    そう。連中は俺を囮に使うためにパーティーに受け入れたんだ。
    逃げられないよう、湿地帯に着くまでの旅路では小物を倒す手助けをしてくれたり、夜営の仕方をレクチャーしてくれたりもしたけどな。
    いざその時になったら躊躇いなく蜥蜴人の群れに俺を投げ込みやがった。
    俺は、死に物狂いで逃げ、戦った。……その時にテイムしたのがザルマだ。
     ザルマを前衛にして湿地帯を抜け出した俺は、手ぶらのまま王都に戻るのも癪で、そのまま雑魚魔物を狩ったり採集しながら帰って、その晩の宿と飯代程度の稼ぎを手にした。
    ……俺は、それからしばらくソロのまま常時依頼で食い扶持を稼ぎながらパーティーの噂や情報を集める事にした。
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