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外伝 - 追放勇者の黒歴史 -

第五話 この世の地獄 【閲覧注意】(※残虐表現アリ)

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    ほたり、ほたりと赤い雫が綺麗に磨かれた艶々の石の床に落ち、タイルの目時を流れていく。
    強く臭う鉄錆びの臭いと不快な臭い。
    鉄格子だけで遮られた小部屋にはそれら全てがダイレクトに伝わる。
    目をつぶり、耳を塞いでも手は二本しかなく鼻はつまめない。なるべく口呼吸して、呼吸の回数も減らしてもこの濃い臭気は防ぎきれないし、子供の手じゃ悲鳴も完全に遮れない。
    次第に臭いに慣れ、同時に自分以外の誰かの悲鳴には関心もなくなっていく。
    ……そう。天井から下がる鎖に繋がれ吊られた子供が鞭打たれて血だらけになっていても。得たいの知れない薬を投与され苦しんでいても。やらしい目的で撫で回されていても。
    それが自分の番ではない限りは、目の前で彼らが息を引き取ってすらどうでも良くて。
    あの吐き気のする光景に何も思えなくなっていた自分がどれだけ異常だったのか理解出来る今だからこそ、それを恐怖と嫌悪の記憶として夢に見てうなされる。
    そして。運が良いのか悪いのか、俺はあの男のにがっちり合致していたらしい。
     ここまで話せば何となく察しているだろうが、あいつは同性愛者だった。……貴族の義務として夫人を迎えて子も作っていたが、その影で地下に子供を囲っていた。
    さらに悪いことにでもあり、また加虐嗜好まであった。
    俺は殺される事こそなかったが、何度も鞭で打たれたし、あちこちベタベタ触られた。
    ……何より。俺は何度もあいつに血を吸われた。
    つまり、求愛されたんだ。自分の年より数倍上の男にだ!    気持ち悪いとしか思えないのに……知っているだろう?    血を吸われる感覚を。……気持ち悪いのに気持ちいいのが更に気持ち悪い。
    あの感覚は、まだ鞭で打たれる方がマシだと思った。
    だが、あいつはその為に俺に対しては投薬実験だけはしなかった。
    ……あそこに居た子供の死因で一番多かったのが投薬実験の失敗だったからな。
    飯は一日スープ一杯だけでひもじかったが、味はしっかりしてたし具材も多かった。……栄養管理だけはしっかりされてたらしくて餓死した子供は少なかった。……ストレスから食えなくなって衰弱死したのは居たけどな。
    けどあの日、俺の目の前であいつは調薬を始めた。
    そうして出来た薬を俺に飲ませようとした。
    ……俺は――死ねば楽になるのに、死にたくなくて抵抗した。頑なに口を閉じて薬を受け付けなかった。……ら、奴め口移しで無理矢理飲ませやがった。――俺の黒歴史の中で最悪の部類の記憶だな。
    それは一度ならず何度も、何度も。
    俺が人間じゃなくなるまで続いたんだ。
    俺はそれを知らないまま毎回無理矢理飲まされて……俺は、吸血鬼になった。
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