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外伝 - 追放勇者の黒歴史 -

第一話 王命

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    それは、いつもの様に俺の部屋へ陛下が押し掛けてきた時の事だった。
    「イマル。悪いが仕事を頼まれてくれないか」
    ……口調はまるで俺の秘蔵の酒をねだる時とまるで同じ。
    「今度は何ですか?    隣国との貿易交渉の下調べですか、それとも――」
    「諜報任務だ。……ヘルナイト王国に潜入して探って欲しい事がある」
    命じられたのは俺の生まれ故郷の村があるあの国への出向命令だった。
    俺を捨てた国。俺が捨てた国だ。
    隣国でありながら、他の隣国と比べて明らかに関心の度合いが低い国。
    嫌いだし、憎い国だが、それより俺にはもっと忌まわしいものがあるせいで、あの国に対する感情は嫌うより憎むより無関心というのが正直なところ――だったのだが。
    「どうもここのところヘルナイト王国が何か企んでるようだが、それが何か探りきれんのだ。……お前にとって複雑な思いのある国なのは分かっているが、ここは一つ頼まれてくれないか」
    ……本当ならヘルナイト王国に向ける以上の憎しみを持つはずだったこの国、アルソレス。
    その王たる彼は俺の恩人だ。故に、その頼みは断り難いし、そもそも王の命令に逆らうなどあり得ない。
    「……承知いたしました。準備が整い次第出発します」
    俺はまず仕事の前倒しと引き継ぎに専念することにして、陛下を部屋から追い出した。
    ――ヘルナイト王国が何か企んでいる、か……。
    そもそも俺自身がヘルナイト王国の過去の企みの遺物なのだから、まぁ頭痛がしてくるのも仕方の無いことだろう。
    俺の場合は、俺を含めた孤児達をこの国の貴族に売り付ける代わりにスパイをやらせようという算段だったらしい。
    が、欲張りすぎて真っ当な貴族にまで声をかけて事態が明るみに出て計画はポシャったが……。
    俺はその前に既に売られていた。
    この国にとっての悪はヘルナイト王国で、あの変態は売国奴という裏切り者。既に処刑までして処理した以上は、この国の施政者として気にするべきはヘルナイト王国だ。
    ……だが。
    俺の悪夢はヘルナイト王国ではなくあの男だ。
    無論、あんな男に俺を売り飛ばしやがった件は恨めしくも思うが、そもそも王国に俺を売ったのは俺の親でありあの村の連中だ。
    そしてあいつらが俺達を買いに来なければ、口減らしで殺されていたか、それより先に餓死していたか。
   ……この国で貴族として働くようになって初めてあの国の貴族の酷さを知った今でも、やはりあの国についてあまり知ろうとしてこなかった。
    俺は最低限の知識くらいは詰めておこうと本を手に取り読みふけり――いつしかふとそのまま意識を失った。
    それを「寝落ち」と言うのだと、後にこの任務の最中に出会うことになる少女に教わるのだが、今の俺は勿論そんな事を知る由もなく。
    俺は、過去の幻影に飲み込まれていった。
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