161 / 192
ざまぁのその後
16-11 晴れ舞台へ
しおりを挟む
「まあ、お綺麗ですわ!」
朝も早くからやって来て、念入りに身支度を整え着飾る手伝いまで完璧にこなしてくれたその道のプロ達。その彼女達皆が納得する出来映えになるまで、私はひたすらお人形に徹していたのだけど……。
仄かな身体的疲労と紛れもない精神的疲労でヘロヘロな私に純粋な称賛の言葉をくれる彼女達に笑顔でお礼を言う。
「ありがとう。……けどもうあちらはとっくに仕度を終えているのでは? かなりお待たせしてしまっているのでは……?」
――イマルは今日、私がどんな装いで式に挑むのか知らずに居る。……そして私も。今日彼がどんな格好で会場に立つのかを知らない。
式の段取りについては何度も詳細まで突き詰め話し合い確認をしてきたけれど、コレに関しては互いに鉄壁のガードが付けられ互いに何も知らずに今日のこの日を迎えてしまった。
……仕掛人は勿論、陛下である。
「――まあ、常識の範囲内であれば、ドレスくらい好きにすると良い。女性にとっては一生に一度の晴れ舞台なのだろう? それをケチる様な甲斐性なしには成りたくないからな」
楽しそうな陛下に水を差す方が面倒だと、世話役だけ付けて丸投げしてくれたんだよ、イマルは。
まあ、確かにあれこれ試着させて貰って楽しかった私も最後の方は息切れして疲れきったくらいだ。男性には苦行だろうしね。
……けど、あの夜会の時の事とか思うと、イマルがどんな格好でいるのか。私の方が何かしでかしてしまわないかだけが不安なんだけど。
――やがて、鐘の音が聞こえてくる。
「お時間でございますわ」
呼びに来た係りの人について式会場に向かう。
……すぐ近くに用意された控え室からは目と鼻の先なんだけど、履き慣れないかかとの高い靴で歩くと普段より距離を感じる。
期待と緊張で飛び出しそうな心臓と相まって、転ばない様に慎重になるから、余計に速度が落ちる。
「これは……なかなか。良い仕上がりだの」
それを、閉め切られた会場の扉の前で気長に待ってくれていた陛下が満足げに頷いた。
「何より、仲良き事は良い事だ」
……ああ。やっぱり筒抜けですか。
夕べあの後で「明日こそが本番なのだから、しっかり見せつけてやろう」とむしろ念入りに求愛された。
まあ、吸血鬼になったことで怪我の治りは早くなったけど、まだかさぶたになりきってない傷痕を見れば誰でも察するよね……。
流石に恥ずかしくて陛下の顔を真っ直ぐ見れずに俯くと、陛下に腕をとられて不安定な足元のバランスを崩しよろめいた。――その隙に陛下の人差し指が私の顎にかかり、いわゆる「顎クイ」で強制的に顔を上げさせられた。
「この先に居るのはイマルだが、他は皆魑魅魍魎の類いぞ。これから先、決して俯くな。何があっても顔を上げていろ」
とても壮絶な笑みを浮かべる陛下に睨まれ凄まれる。
「魔族は化け物ではない。だが、政治に関わり権力に群がる者は人間だろうと魔族だろうと程度の差こそあれ皆化け物よ。努々心するが良いぞ、聖女どの。今日ここでイマルと永遠の愛とやらを誓ったその瞬間からそなたも魑魅魍魎の世界に正式に足を踏み入れる事になる。今、これからの振る舞い次第で奴等は新入りを品定めするのだ。奴らに喰われぬよう、遊ばれぬよう、逆に手玉に取ってやる位のつもりで行け」
「……はい」
そして。再び鐘が鳴り、ゆっくりと扉が開く。
中からどっと、ファンファーレの音が溢れ盛大な拍手で迎えられる。
扉から真っ直ぐ続く道の先に立つのは――。
朝も早くからやって来て、念入りに身支度を整え着飾る手伝いまで完璧にこなしてくれたその道のプロ達。その彼女達皆が納得する出来映えになるまで、私はひたすらお人形に徹していたのだけど……。
仄かな身体的疲労と紛れもない精神的疲労でヘロヘロな私に純粋な称賛の言葉をくれる彼女達に笑顔でお礼を言う。
「ありがとう。……けどもうあちらはとっくに仕度を終えているのでは? かなりお待たせしてしまっているのでは……?」
――イマルは今日、私がどんな装いで式に挑むのか知らずに居る。……そして私も。今日彼がどんな格好で会場に立つのかを知らない。
式の段取りについては何度も詳細まで突き詰め話し合い確認をしてきたけれど、コレに関しては互いに鉄壁のガードが付けられ互いに何も知らずに今日のこの日を迎えてしまった。
……仕掛人は勿論、陛下である。
「――まあ、常識の範囲内であれば、ドレスくらい好きにすると良い。女性にとっては一生に一度の晴れ舞台なのだろう? それをケチる様な甲斐性なしには成りたくないからな」
楽しそうな陛下に水を差す方が面倒だと、世話役だけ付けて丸投げしてくれたんだよ、イマルは。
まあ、確かにあれこれ試着させて貰って楽しかった私も最後の方は息切れして疲れきったくらいだ。男性には苦行だろうしね。
……けど、あの夜会の時の事とか思うと、イマルがどんな格好でいるのか。私の方が何かしでかしてしまわないかだけが不安なんだけど。
――やがて、鐘の音が聞こえてくる。
「お時間でございますわ」
呼びに来た係りの人について式会場に向かう。
……すぐ近くに用意された控え室からは目と鼻の先なんだけど、履き慣れないかかとの高い靴で歩くと普段より距離を感じる。
期待と緊張で飛び出しそうな心臓と相まって、転ばない様に慎重になるから、余計に速度が落ちる。
「これは……なかなか。良い仕上がりだの」
それを、閉め切られた会場の扉の前で気長に待ってくれていた陛下が満足げに頷いた。
「何より、仲良き事は良い事だ」
……ああ。やっぱり筒抜けですか。
夕べあの後で「明日こそが本番なのだから、しっかり見せつけてやろう」とむしろ念入りに求愛された。
まあ、吸血鬼になったことで怪我の治りは早くなったけど、まだかさぶたになりきってない傷痕を見れば誰でも察するよね……。
流石に恥ずかしくて陛下の顔を真っ直ぐ見れずに俯くと、陛下に腕をとられて不安定な足元のバランスを崩しよろめいた。――その隙に陛下の人差し指が私の顎にかかり、いわゆる「顎クイ」で強制的に顔を上げさせられた。
「この先に居るのはイマルだが、他は皆魑魅魍魎の類いぞ。これから先、決して俯くな。何があっても顔を上げていろ」
とても壮絶な笑みを浮かべる陛下に睨まれ凄まれる。
「魔族は化け物ではない。だが、政治に関わり権力に群がる者は人間だろうと魔族だろうと程度の差こそあれ皆化け物よ。努々心するが良いぞ、聖女どの。今日ここでイマルと永遠の愛とやらを誓ったその瞬間からそなたも魑魅魍魎の世界に正式に足を踏み入れる事になる。今、これからの振る舞い次第で奴等は新入りを品定めするのだ。奴らに喰われぬよう、遊ばれぬよう、逆に手玉に取ってやる位のつもりで行け」
「……はい」
そして。再び鐘が鳴り、ゆっくりと扉が開く。
中からどっと、ファンファーレの音が溢れ盛大な拍手で迎えられる。
扉から真っ直ぐ続く道の先に立つのは――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,156
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる