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つかの間の休息

13-3 部屋割りの理由

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    彼女を部屋からしめ出して疲れきった私はそのままベッドにダイブした。
    ――イマルはお風呂中。
    追い焚き機能なんかあるはずもない湯船の湯が冷めきらないうちに入らないと、と押し込んだのは私だ。
    微妙に漏れ聞こえてくる水の音が現実逃避を許してくれない。
    ……うん。勢いもあったとはいえ、さっき私は自分であの子にイマルが婚約者だと言ってしまった。
    後悔は……してないけど。でも、今晩イマルと同じベッドで寝なくちゃいけないシチュエーションが待っているのにそれは……ちょっとやらかした感が半端なくて……。
    彼の風呂上がりをどんな顔で待ってれば良いのか。もういっそさっさと寝てしまいたい。疲れてて眠くて、すぐにでも寝れそうなのにこういう時に限って何故か寝付けない。
    ぐるぐるぐるぐる考えてるうちに、湯上がりほっこりな彼が戻ってきてしまう。……ああ、髪洗って乾かしてないから、水も滴る何とやらで色気が数割り増しに……。
    何ですか、私に対する挑戦ですか。
    思わず構えてしまう私をイマルが面白そうに見下ろす。……この顔、見覚えがある。風邪ひいて看病された朝、怯えるハムスターを宥めるように頭を撫でられた時もこんな顔してたな。
    タオルで髪をぬぐいながらおもむろにベッドに腰を下ろし、足を組んだイマルは私に背を向け肩を震わせる。
    悔しいから、魔法で彼の髪の水分を一瞬で飛ばし、乾かしてやった。
    「……随分と器用な事を簡単にやるもんだな」
    「まあね。……だってそれだけ練習したもの」
    「お前は、あれで良かったのか?」
    「彼女の事?」
    「ああ」
    「……うん。最低限、命と今後の生活が保証されるなら充分だと思うから。流石に勇者パーティーと全く同じ処罰だったら抗議したと思う。でも、強制労働系の処罰が下されるらしい彼らと違って、普通に暮らせるんだもの。後は彼女次第だよ」
    勇者パーティーもある意味国が仕立てたスケープゴートの様なものだけど、国外でのやらかしや戦争にも参加していた事で強制労働――年数はこの後の会議で決まる――が課せられる。
    聖女のあの子も本当なら彼らと共に処罰されるところを、強制召喚され誤った知識と認識を植え付けられたからと情状酌量されている。
    「今後はあの子も私も被害者ぶってお客様はもうしていられない。この世界で、この世界の住人として生きていかなきゃいけないんだから」
    「――そうか。ならば遠慮なくやらせて貰おうか」
    「へ!?」
    背を向けていたイマルが笑ってこちらを振り向いた。
    「明後日にはまた各国の要人が集う。その前に求愛を済ませろ、って事だぞこの部屋割りの意味は。もうそんなにダメージも受けなくなったし、一晩あれば充分だと思うんだかな」
    あー。何か、すごーく楽しそう。うん、初めは私が罪悪感で一杯になるくらい苦しんでたイマルも、最近では顔をしかめるまでもなく済ませてるもんね。
    逆に私の方は……その……血を吸われる度に妙な感覚が強くなってて……。どうしようもなく恥ずかしいんだけど……ね? 
    なんて、でも言えるはずもなくて。けど、多分イマルにはバレてる。だからこんなに機嫌が良いんだろう。……おあつらえ向きに今は二人ともベッドの上だし。
    この状況で私がイマルに勝てるはずもない。
    ……諦めて素直に彼の牙を受け入れた。――思いっきりあちこち撫でくり回されたけど……。うん、最後まではシてない。してないからね!?
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