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つかの間の休息
13-2 聖女様のお願い
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――流石ヘルナイト王国の城。
客室の個室についた風呂場にも湯船がある。
……と言っても温泉地でもないこの地で風呂に入ろうとすれば、使用人に言って大鍋で沸かして貰った湯をここまで運んで湯船に湯を入れて貰わなきゃいけない。
けど、私は魔法が使えるから、自分でお湯を張れる。……魔法職で良かった、と、こんな事で感謝することになるとは――。
なんて思いながら、一日フル装備で動き回って疲労した身体を温めつつまったりしていると、何やら外が騒がしい。
外、と言っても城の外ではなく風呂場の外、部屋の中が騒がしい。部屋にはイマル一人だけのはずだけど……マリーかケントでも訪ねてきて、この現状を知って――マリーなら間違いなくからかってるだろうし、ケントは……うん、顔真っ赤にして子犬みたくきゃんきゃん吠えてる様が容易く想像できてしまう。
まあ、もう程よく温まったしもういいか、と着替えて部屋へ戻ると。
「――出ていけ。お前の境遇に同情はするが、公に仕事で頼まれたならともかく、私的にお前と馴れ合う気はない」
「でも……、でも……!」
イマルと、一人の女がドアの前で押し問答をしていた。
「イマル……?」
「あ……! あなた……、あなたでしょ、私と一緒に召喚されてきた子って!」
「……そうだけど。何であなたがここに?」
「だってあなた、聖女じゃなくて追い出されたでしょ? 心配してたんだよ……! でも、私には何も出来ないし……。なのにあなたは皆と同じに戦えてた! 聞いたの、このイマル? って人が元勇者パーティーに居た人だって。あなたは彼に教えて貰ったんでしょう? だから私にも……って……。ねぇ、あなたからも頼んでよ、いいでしょ?」
「……嫌よ」
「え……? 何で……?」
「彼……イマルは私の婚約者だもの」
「で、でも……」
「そりゃあね、あなたの境遇には私も同情するわ。私だってイマルに色々教えてもらえず、あなたと同じようにあの連中に甘やかされてたらどうなってたか……。私もあなたの事は心配したけど、自分の事で精一杯で何かしてあげられる余裕はなかったから」
「だ、だったら……!」
「――でも。私は努力したわ。この世界に来たばかりの頃は、旅をする体力すら足りない役立たずだったけど、皆に支えて貰いながらでも頑張ったから今の私がある」
いつだったか、ダクーラでニアミスした時の記憶が甦る。
「あの日、召喚されてきてからこの世界の暦で二年以上経つけど、あなたはその間何をしたの?」
「それは……皆が言うように聖女として……」
「うん。最初のうちはそうするしか無かったのは分かるから、そこを責めるつもりはない。でも、その後は? ずっとこの国に居て外に出なかったなら仕方ないなって思ったかもしれない。でも、違うよね? 少なくともダクーラではこの国で言われたことが正しくないかもって思う機会があったはすだよね? その後は? あなたは何をしてたの?」
「それは……でも、私一人じゃ……」
「――お前の事は俺が本国に報告を上げていた。お前の保護をするため接触した者は居たはずだが、断られたと報告を受けているが?」
「だって、本当に信じて良いのか判らなくて……!」
「だったら。勉強するなりなんなり何かはできたはず。なのに自分じゃ何も努力しないで人にすがるだけのデモデモダッテちゃん。……それでも、あなたを保護してくれる国へのあれこれ面倒な事をイマルはもうしてくれてる。これ以上はあなた次第よ。だから、私もイマルもこれ以上はあなたと関わらない」
ドアを無理やり閉めて鍵をかける。
……せっかく風呂に入ったのに何かすごく疲れたよ。
客室の個室についた風呂場にも湯船がある。
……と言っても温泉地でもないこの地で風呂に入ろうとすれば、使用人に言って大鍋で沸かして貰った湯をここまで運んで湯船に湯を入れて貰わなきゃいけない。
けど、私は魔法が使えるから、自分でお湯を張れる。……魔法職で良かった、と、こんな事で感謝することになるとは――。
なんて思いながら、一日フル装備で動き回って疲労した身体を温めつつまったりしていると、何やら外が騒がしい。
外、と言っても城の外ではなく風呂場の外、部屋の中が騒がしい。部屋にはイマル一人だけのはずだけど……マリーかケントでも訪ねてきて、この現状を知って――マリーなら間違いなくからかってるだろうし、ケントは……うん、顔真っ赤にして子犬みたくきゃんきゃん吠えてる様が容易く想像できてしまう。
まあ、もう程よく温まったしもういいか、と着替えて部屋へ戻ると。
「――出ていけ。お前の境遇に同情はするが、公に仕事で頼まれたならともかく、私的にお前と馴れ合う気はない」
「でも……、でも……!」
イマルと、一人の女がドアの前で押し問答をしていた。
「イマル……?」
「あ……! あなた……、あなたでしょ、私と一緒に召喚されてきた子って!」
「……そうだけど。何であなたがここに?」
「だってあなた、聖女じゃなくて追い出されたでしょ? 心配してたんだよ……! でも、私には何も出来ないし……。なのにあなたは皆と同じに戦えてた! 聞いたの、このイマル? って人が元勇者パーティーに居た人だって。あなたは彼に教えて貰ったんでしょう? だから私にも……って……。ねぇ、あなたからも頼んでよ、いいでしょ?」
「……嫌よ」
「え……? 何で……?」
「彼……イマルは私の婚約者だもの」
「で、でも……」
「そりゃあね、あなたの境遇には私も同情するわ。私だってイマルに色々教えてもらえず、あなたと同じようにあの連中に甘やかされてたらどうなってたか……。私もあなたの事は心配したけど、自分の事で精一杯で何かしてあげられる余裕はなかったから」
「だ、だったら……!」
「――でも。私は努力したわ。この世界に来たばかりの頃は、旅をする体力すら足りない役立たずだったけど、皆に支えて貰いながらでも頑張ったから今の私がある」
いつだったか、ダクーラでニアミスした時の記憶が甦る。
「あの日、召喚されてきてからこの世界の暦で二年以上経つけど、あなたはその間何をしたの?」
「それは……皆が言うように聖女として……」
「うん。最初のうちはそうするしか無かったのは分かるから、そこを責めるつもりはない。でも、その後は? ずっとこの国に居て外に出なかったなら仕方ないなって思ったかもしれない。でも、違うよね? 少なくともダクーラではこの国で言われたことが正しくないかもって思う機会があったはすだよね? その後は? あなたは何をしてたの?」
「それは……でも、私一人じゃ……」
「――お前の事は俺が本国に報告を上げていた。お前の保護をするため接触した者は居たはずだが、断られたと報告を受けているが?」
「だって、本当に信じて良いのか判らなくて……!」
「だったら。勉強するなりなんなり何かはできたはず。なのに自分じゃ何も努力しないで人にすがるだけのデモデモダッテちゃん。……それでも、あなたを保護してくれる国へのあれこれ面倒な事をイマルはもうしてくれてる。これ以上はあなた次第よ。だから、私もイマルもこれ以上はあなたと関わらない」
ドアを無理やり閉めて鍵をかける。
……せっかく風呂に入ったのに何かすごく疲れたよ。
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