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ざまぁの前哨戦

11-8 横槍

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    王が提示した対価に、ざわめいたのは貴族達だった。
    私は事前に予想していた話だったし、それを聞いていたマリーとケントも今さら動揺などするはずもなし。
    貴族席に並ぶイマルは無表情のままだったけど。
    周囲の貴族達の反応は割れた。
    明らかな不快感を示す者、イマルに対し負の感情を向ける者、漠然と周囲の空気に身を任せ、流れを読み有利な側を見極めようとする者。様々居るけれど、好意的な空気はほぼ感じられない。
    「――それが対価であるならば、私は受け入れる事に異議はございません」
    だからこそ、私はあえて迷いなく答えた。
    ……この空気。
    苦労人だったんだと思っていたイマルは、今も現在進行形で苦労人なんだと肌で実感出来てしまったから。
    「――陛下。既に召喚されてしまった聖女を我が国に留めておく益については理解しておりますし、その手段として婚姻が有効であり、また過去の先例からも良策である事は認めましょう。しかし、何故その相手が既に決まっているのでしょう?    それもどうして彼なのか、納得のいくご説明をお願い致します」
    「何、ヘルナイト王国が放り出した彼女を拾い保護して育てたのが他ならぬ彼だからな。――生まれ育ちが貴族でそう教育されその覚悟がある者ならまだしも、ただでさえ見知らぬ、頼れる者の無い世界に来てしまった娘を見ず知らずの男に嫁がせるよりは気心の知れた男に任せるのが得策だとは思わんかね?」
    「……確かに貴族でない者に無茶な政略結婚を押し付けるのは酷でありましょう。見ず知らずの男より気心の知れた者の方が良いというのも分かりますが、ならばパーティーか茶会でも開き、年頃の合う子息達と引き合わせ、その中から気に入った者を選ぶのでも良いのではありませんかな?    ――何せイマル殿とて貴族のそうした心構えについては明るくなくていらっしゃいますからなぁ、ははは」
    「ああ。どう取り繕おうと所詮は政略結婚だ。無論、親の年以上に年齢差のある御仁やどこぞの後妻といったあからさまな話は除くとしても、どこぞの次男三男との婚姻ならどんな子が生まれようと構うまい?」
    けらけらと交わされる、私についての失礼な話。
    ムカつくけど、後ろ楯もなく立場の弱い私がここで楯突いても良い結果にはならないから、黙っているしかない。
    ここで拒否してしまえば、私達の望みが聞き届けてすら貰えなくなる可能性が高いから。
   そう思って口を閉ざしていたんだけどね。
   「てめぇら黙れ」
    ガンっ、と物凄い音を立てて貴族席の机が一つぶっ飛んだ。
    後には、行儀悪く突き出されたイマルの足が丸見えで。蹴り飛ばされた机は粉砕され、その木屑がはらはらと粉雪のように降り注いでいた。 
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