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魔族の国
10-8 デバガメ
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前にイマルは私に好きに未来を選べと言った。
「この世界に来て、冒険者をしながらこれまで幾つかの国を見て歩きました。その上で、身元保証もなく職能もあまりおおっぴらには出来ない私が、堅気の人と結婚して幸せになれるとは思えません。なら、このまま冒険者としてお金を稼いで、一人で生きるか適当な男を捕まえるかの二択になるでしょうが……先に言った通り、私はこの世界で一生独身で過ごしたくはありません」
銀の剣メンバーとしか行動していない今の私の選択肢はとても狭い。
そして例え冒険者なんて稼業でも女の婚期は日本に比べて早い。二十歳を過ぎれば行き遅れと言われるんだから、時の猶予は片手の指の数も無い。
「イマルの事は……まぁ、好き……ですし。――ワガママを言えばもう何年かは冒険者生活を楽しみたい気もしますけど、話を断る理由にはなりません」
そう答えたら、何故かイマルは一時停止した動画みたく固まったままうんともすんとも言わなくなった。
けど、隣の個室から突然何かを吹いたような音に続いて野太いおっさんの爆笑が壁を越えて届いた。
んー? 笑い声だから分かりにくいけど何か聞いたことのある声ダナーとか思っていたら、一時停止していたイマルが今度は五倍速くらいの勢いで隣室へ飛び込んで行った。
「陛下! こんな所で何をなさっておいでか!」
ガタガタと壁越しにイマルの声をひそめた怒鳴り声と、椅子かテーブルか……家具や食器が耳障りな音を立てるのが聞こえてくる。
へー。陛下が街の――それも少しお高い店とはいえ庶民の来る街区にある店でお忍び――それももしかしなくても、目的はデバガメ。
アルソレスよ、それで良いのか? いや、良くないからイマルが怒ってるんだろうけどね。
叱るんじゃなく怒ってるイマルを前にしてまだあれだけ爆笑できる陛下ってスゴイ。
「いやいや、愉快であったぞ? ぶくく、イロイロ知ってるからこそこのオチは最高に愉快だ、わはははは!」
「今すぐ黙らないと宰相に使いを出しますよ。ヴァルに届けて貰えば五分もかからず文字通り飛んできて説教付きで城に戻る事になりましょう」
それが良い、とイマルは即ヴァルを召喚したらしい。
「あ、ああいや待て待て早まるな、まずは落ち着いて話し合おうじゃないか。未来の嫁に挨拶もしたいしな」
「陛下!」
うわ、あのイマルがからかわれている。
分かってた気になってたけど。これは相当気合い入れてかからないと、こちらの意見を上手く通せないままあちらの申し出ばかり受け入れるはめになりそう。
それは、陛下が意地悪とかいうんじゃなく、ただ私の能力が足りないだけ。
相手は国を背負う王で、国益に大いに影響してくる交渉で個人都合の手加減なんかしてはいけない人なんだから、後は実力勝負。
でも、そんな公の場に出る前に王と言葉を交わせる機会は貴重だから。
イラつくイマルを煙に巻いた陛下が彼を連れてこちらの部屋へ来たことは、私にとってはむしろありがたい流れだった。
王は給仕に茶のおかわりを頼む。
二人席の四角いテーブルの横、向かい合って座る私達の間に割って入るように座った王は、機嫌の悪そうなイマルの顔をニヤニヤしながら眺める。
それは、去年の文化祭で女装させられた可愛い系男子をからかうクラスメートの表情にとても良く似ていた。
そして王は。私に満面の笑顔を向けた。
「――面白い話を聞かせてあげよう」
「この世界に来て、冒険者をしながらこれまで幾つかの国を見て歩きました。その上で、身元保証もなく職能もあまりおおっぴらには出来ない私が、堅気の人と結婚して幸せになれるとは思えません。なら、このまま冒険者としてお金を稼いで、一人で生きるか適当な男を捕まえるかの二択になるでしょうが……先に言った通り、私はこの世界で一生独身で過ごしたくはありません」
銀の剣メンバーとしか行動していない今の私の選択肢はとても狭い。
そして例え冒険者なんて稼業でも女の婚期は日本に比べて早い。二十歳を過ぎれば行き遅れと言われるんだから、時の猶予は片手の指の数も無い。
「イマルの事は……まぁ、好き……ですし。――ワガママを言えばもう何年かは冒険者生活を楽しみたい気もしますけど、話を断る理由にはなりません」
そう答えたら、何故かイマルは一時停止した動画みたく固まったままうんともすんとも言わなくなった。
けど、隣の個室から突然何かを吹いたような音に続いて野太いおっさんの爆笑が壁を越えて届いた。
んー? 笑い声だから分かりにくいけど何か聞いたことのある声ダナーとか思っていたら、一時停止していたイマルが今度は五倍速くらいの勢いで隣室へ飛び込んで行った。
「陛下! こんな所で何をなさっておいでか!」
ガタガタと壁越しにイマルの声をひそめた怒鳴り声と、椅子かテーブルか……家具や食器が耳障りな音を立てるのが聞こえてくる。
へー。陛下が街の――それも少しお高い店とはいえ庶民の来る街区にある店でお忍び――それももしかしなくても、目的はデバガメ。
アルソレスよ、それで良いのか? いや、良くないからイマルが怒ってるんだろうけどね。
叱るんじゃなく怒ってるイマルを前にしてまだあれだけ爆笑できる陛下ってスゴイ。
「いやいや、愉快であったぞ? ぶくく、イロイロ知ってるからこそこのオチは最高に愉快だ、わはははは!」
「今すぐ黙らないと宰相に使いを出しますよ。ヴァルに届けて貰えば五分もかからず文字通り飛んできて説教付きで城に戻る事になりましょう」
それが良い、とイマルは即ヴァルを召喚したらしい。
「あ、ああいや待て待て早まるな、まずは落ち着いて話し合おうじゃないか。未来の嫁に挨拶もしたいしな」
「陛下!」
うわ、あのイマルがからかわれている。
分かってた気になってたけど。これは相当気合い入れてかからないと、こちらの意見を上手く通せないままあちらの申し出ばかり受け入れるはめになりそう。
それは、陛下が意地悪とかいうんじゃなく、ただ私の能力が足りないだけ。
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でも、そんな公の場に出る前に王と言葉を交わせる機会は貴重だから。
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王は給仕に茶のおかわりを頼む。
二人席の四角いテーブルの横、向かい合って座る私達の間に割って入るように座った王は、機嫌の悪そうなイマルの顔をニヤニヤしながら眺める。
それは、去年の文化祭で女装させられた可愛い系男子をからかうクラスメートの表情にとても良く似ていた。
そして王は。私に満面の笑顔を向けた。
「――面白い話を聞かせてあげよう」
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