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魔族の国

10-7 贅沢ランチ

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    野菜のソテーという前菜から始まった食事。鶏ガラベースの卵スープに貝のワイン蒸し、チキンのミルク煮のパイ包みと続き――。
    今は紅茶とワッフル――ベリーのソースとシャーベット添え――を堪能している。
    料理の味付けは独特だけど、まるでイタリアンかフレンチのコースを楽しんだ気分だ。……まだ昼だと言うのに。
    「それで。お前の答えは出たのか?」
    デザートを食べる手を休め、イマルがこれまでの軽い世間話から一歩も二歩も踏み込んだ問いを口にした。
    「それは、例の件についての話ですよね?」
    「そうだ」
    「うーん、どうだろう。ダクーラで勉強はしましたから、魔族についての知識は得ています。その上で、種族に対しての偏見はありません。でも、今後どうするかはまだ……。今の第一目標はあくまで連中のざまぁです。その後の事まで考える余裕は……私、そこまで器用でも頭良くもないですから」
    「そうか……」
    「今回アルソレスに来たのはその件ですからね。私達だけで先走っても良いこと無いですから。ざまぁだけして放りっぱなしは無責任だし、かといってマリーはまだしも私やケントに混乱する王国を纏める力なんてありません。……だから、その為の助力の条件がこの国の庇護を受け入れ国籍を得てここで暮らせと言われるなら、それを受け入れる程度の覚悟はありますよ」
    私達の願いは、極端に見れば「美味しいところは私達で、後の面倒事はよろしく」と言うようなものだ。その代償として「国の益に貢献しろ」と言うのはむしろ良心的なレベルだ。それを無償で強請ろうなんて非常識だしありえないのも理解しているつもりだ。
   「――ほぅ、そうか。例えばそれが、あの時の王の戯れ言が戯れ言で済まなくなっても受け入れるのか?」
    「王の戯れ言って……どれの事です?」
    「王は俺に嫁を迎えろと煩い。あの時もお前を俺の嫁にどうかと言っていただろう」
    「あー、あれですか……。まあ、アリかナシかで言えばまあありなのでは?」
    「……は!?」
    ん?    何で聞かれた私より聞いたイマルのが驚いてるの?
    「だって、王候貴族なら政略結婚は当たり前でしょう?   マリーだって婚約破棄されるまではあの男……私は噂でしか知らないけどそれでもどうしようもない男と婚約させられていたんですよ?」
    彼は侯爵で、私は身分なんて無いから、それだけ見るとあり得ないけど、私は異世界人の聖女で、賢者職持ちだ。かつて聖女が敬われていた時代には、おとぎ話のように――とは言え流石に王太子おうじさまとの婚姻はなかったけど――第三以降の王子や貴族と結婚した聖女も歴代の中には居た。
    そしてイマルは元は村人。
    「まったく見ず知らずの男に嫁げと言われる可能性だってあるんです。政略結婚でなくたって、国どころか世界が違うんです。政略結婚でなくても、事情を知らない男に嫁いで苦労しないはずもないですし。かといって、この世界で一生独りで生きてく覚悟も持てません」
    日本で、仕事しながら彼氏も旦那も要らんと独り貯蓄に精を出すのとは訳が違う。
    単に肉親が居ないと言う意味での天涯孤独よりも遥かに重く、この世界で私がすがれるのは未だ銀の剣パーティーメンバーだけなのだから。
    この世界に召喚されて来たばかりの、何も出来なかった小娘だった頃とは違う。冒険者として、イマルにこそまだ敵わないけど、そこそこの実力は得ている今だからこそ。
    「――知識としては知っていても、見も知らぬ地で、友人も知人も無くゼロから全てを築き上げ居場所を得るなんて、私にそこまでのバイタリティーはありませんから」
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