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魔族の国

10-3 手合わせ

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    「それじゃ、準備は良いか?」
   今、私たちの前に喚び出されたのは盾職のルミナと剣士のザルマ、魔術師のネイア。
    魔物使いとしてのイマルが同時召喚可能な上限数一杯使って、超戦闘型の三体を並べた。
    ――これが本番の戦闘なら、情け無用、庇ってくれる仲間の居ない彼らの主である魔物使い、つまりイマルを叩くのが一番手っ取り早く有効な作戦なんだけど。
    これは、私達の成長具合を見せるための手合わせなのだから、かつて彼らに庇われる機会のが多かった頃とはもう違うと主張するためにも手は抜けない。
    私達も各々自分の武器を構えて臨戦態勢を取る。
    ――ここは、イマルのカイルに乗って約一日程進んだ場所。
    ネフシールから一晩かからずアルソレスの王都に着けたのに、何故一日で着けなかったか。
    まあ一言で言えば荷物が増えたから。
    こないだは私とイマルの二人、それも町歩きするだけの軽装だったけど、今回はしっかり装備を整えた上で二人も増えた。
   その重さの分、スピードに回せる余力が無くなった訳だが、これでも馬車を使うより圧倒的に早い。
    速度そのものもそうだけど、山や水辺で回り道をしなくて良いのも大きい。
    そして今私達はとある湖畔の草原に夜営の支度を終え、そこから少し離れた場所に居る。
    他に人は居ないから、審判なんてのも無いけど。
    そこは相撲の様に。見合い、タイミングをはかり――ケントとザルマがまず動く。
    ザルマの軽いが素早い剣を、ケントの最近重さを増した彼の大剣ががっちり受け止める。
    出会ったばかりの頃に比べて随分と筋肉質で逞しい体つきになったケントはそれを力で押し返し、払いのけて返す刃でザルマに切りつけるもそこは流石の素早さと脚力で跳び退き避けた。
    それを追うケントの前に立ち塞がるのはルミナ。さらにその背後からはラミアが放った麻痺毒の毒霧魔法が迫る。
    私は風魔法で毒霧を払うついでに旋風をザルマに叩きつけ、その軽い身体を吹き飛ばしてやる。
    その隙にマリーがルミナと対峙し、ケントはすぐに狙いをラミアに変えて駆け出す。
    私が氷魔法で周囲の空気を冷やしラミアの動きを鈍らせ彼のフォローをしつつ、ザルマには邪魔に入られないよう牽制する目的で、氷の壁で周囲の四方を囲い閉じ込めた。
    そんなもの、彼の脚力で蹴り飛ばせば一分持つかどうか……だけど、それだけ時間があれば良い。
    ケントは力一杯剣の腹で彼女を張り飛ばす。
    下半身こそ硬い鱗に守られているけれど、上半身は柔い人の身に軽装備を身に付けただけの彼女は逃げ足も寒さに封じられた状態でケントの攻撃をまともに受け、くらくらと星を飛ばし一時戦闘不能と化した。
    そんな彼女を回復せんと意識を目の前のマリーから反らしたルミナには、祭りの射的よろしく、空気の塊を弾代わりに連射し転ばしてやる。
    マリーもその隙を逃さず、ピタリとその首に槍斧の刃を添え。
    壁を壊しようやく戦線復帰!    と意気込んだザルマがその光景に「え!?」と固まり、すかさずケントが胸元でピタリと剣先を止める。
    「――成る程、見事。個人の能力だけでなく、素晴らしい連携プレーだ。……強くなったな」
    イマルが微笑み。
    「だが、まだ少し甘いな」
    と。たった今下したばかりの三体を戻してニールを喚び、圧倒的な氷魔法をこちらに向けた。
    私はすぐに結界魔法でケントとマリーを庇い、こちらも先程の倍以上の威力の竜巻をぶつけて相殺――いやカウンターを狙う。
    が、気付けばその場に既にニールの姿はなく。
    「ヒカル、後ろですわ!」
    マリーの警告も僅かに遅く、私は襟首をニールに咥え上げられ高いところへ持ち上げられた。
    ……いつか覚えのある状況だ。
    「魔物使いの俺を押さえなければ勝ちとは言えないだろう?」
    そうは言うけど。先に考えた通りに真っ先にイマルを押さえてたらそれはそれで叱られたと思う。
    「そもそも、勝敗条件を先に確認しなかった時点でお前達の敗けだ」
    「……う」
    「た、確かに……」
    殺して終わりの実戦でないからこそ必要になる手順を、相手がイマルだからとつい失念していたのは私達の落ち度。
    戦闘能力はいい線まで追い付いたと思ったのに……。まだまだ足りないものが一杯あると分からされた一夜が明け。
    その日の昼過ぎに、私達は王都の門をくぐったのだった。
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