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幕間③ - ある主従の語らい -
小話③:保護者 - イマル視点 -
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「……そうか、無事町を出たか。――引き続き頼むぞ」
「――はっ、」
報告に戻った彼女もすぐ様今もあの子に付いている相方の元へと足早に去っていく。
静かになった執務室。
……まあいつもの事だな。好んでこの部屋に来る者などそうは――
「おい、イマル!」
……ああ。一人だけ居たな、例外が。
「陛下、何用で御座いますか? 余程の緊急時で無い限りノックをして下さいと再三申し上げているはずですので、勿論火急の用件なのですよね?」
「む、うむぅ、何……ちと面白い話を耳にしたのでな、お前の部屋で酒でも飲みつつお前で遊びに来たのだ」
「……仕事して下さい陛下。私にも仕事が――」
「ほぅ? 何としてでも口説き落として我が国で確保すべきだった聖女を逃がしたくせして、一方では自分の子飼いに逐一報告を上げさせるのがお前の仕事か?」
「……っ!」
「――当初わしのところに入っておった情報は、ヘルナイト王国が聖女召喚に成功した報のみであった。お前があの娘を確保出来ていなかったら、我が国の諜報はもう一人の聖女の存在に気づけんかった。――結果あの娘が野垂れ死にするならまだ良いが、やっかいな者に拾われてはエライ事になったやもしらん。それはお前の手柄だ」
「……偶然ですよ。面倒の無いパーティーに入るつもりで、明らかに物知らずな初心者パーティーに声をかけたのですから。……その直後にまさかカルロの元婚約者の元ご令嬢がパーティーメンバーに加わった上に追い出され聖女にアルムと因縁のある剣神なんて厄介なパーティーだと知ってどれだけ焦ったか。……聖女――ヒカルは賢者職持ちなのに何も知らず、放り出したら大変だからと色々教えて――」
「ああ、そのイレギュラーについてはまあ同情もする。あの国を出るまでの行程はまあ無難な選択だったんだろうが……。お前は嬢ちゃんに構いすぎたよな? 国を出たら即国へ戻れば良かった。――国を出る直前に自分の屋敷へ薬を調達しに戻ってくる余裕があったんだ。ネフシールで街に留まる必要は無かったよな?」
「……。」
「お前には時間をかける必要があったんだよな。あの娘を育てる時間が、あの子の居場所となるパーティーを育てる時間が。――んで、本音ではまだあのパーティーに居たかったんだろう、お前?」
「……いえ。ちょうど頃合いでしたから。基礎は叩き込みましたから、あとは自分で実戦経験を積むのが一番――」
「だからお前は離れ、しかしあの娘が本格的にまずいことにならないよう護衛をつけてる。――十分過保護だろ?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、彼――魔王陛下は俺の秘蔵の酒のありかをちらちら盗み見る。
「わざわざ俺を敵に回すことの無いようにあんな会わせ方をしたんだろう? 全く確信犯めが。……で、あの娘がお前の嫁に来てくれるのは何時になるんだ?」
「……さあ? 何を仰っているのか分かりませんが」
「くくくくくっ、お前がなんの確証もナシに惚れた女を手放すクチかよ。戻ってくると思うから今は手を離した……フリして実はてぐすねひいて……って……。――普通は引かれるぞ?」
「その時はその時でまあ何とかしますよ」
「……お、認めたな?」
「――そうですね。陛下がお持ちになるどこぞの頭の足りない見合い相手よりは余程も良いと――そう思いますよ?」
「お前……」
「陛下、行き場を無くし生きる気力も失っていた俺を拾って育てていただき爵位まで与えて下さったご恩に報いたい気持ちは御座います。ですが、この件に関しては手を引くつもりはありません」
「……少々あの嬢ちゃんに同情したくなったぞ」
ぐだぐだと陛下はワイングラスを傾ける。
この間はその席にヒカルが居たんだが。……自分で連れ込んだくせに、まるでそれが夢だったかの様だ。
確信なんてもの、あるはず無い。あるのは……あまりに強く望んでしまえばその重みに潰れて無に帰してしまいそうな夢だけ。
そう、かつて何も知らずに無邪気に過ごしていられた遠い過去の様に――。
「――はっ、」
報告に戻った彼女もすぐ様今もあの子に付いている相方の元へと足早に去っていく。
静かになった執務室。
……まあいつもの事だな。好んでこの部屋に来る者などそうは――
「おい、イマル!」
……ああ。一人だけ居たな、例外が。
「陛下、何用で御座いますか? 余程の緊急時で無い限りノックをして下さいと再三申し上げているはずですので、勿論火急の用件なのですよね?」
「む、うむぅ、何……ちと面白い話を耳にしたのでな、お前の部屋で酒でも飲みつつお前で遊びに来たのだ」
「……仕事して下さい陛下。私にも仕事が――」
「ほぅ? 何としてでも口説き落として我が国で確保すべきだった聖女を逃がしたくせして、一方では自分の子飼いに逐一報告を上げさせるのがお前の仕事か?」
「……っ!」
「――当初わしのところに入っておった情報は、ヘルナイト王国が聖女召喚に成功した報のみであった。お前があの娘を確保出来ていなかったら、我が国の諜報はもう一人の聖女の存在に気づけんかった。――結果あの娘が野垂れ死にするならまだ良いが、やっかいな者に拾われてはエライ事になったやもしらん。それはお前の手柄だ」
「……偶然ですよ。面倒の無いパーティーに入るつもりで、明らかに物知らずな初心者パーティーに声をかけたのですから。……その直後にまさかカルロの元婚約者の元ご令嬢がパーティーメンバーに加わった上に追い出され聖女にアルムと因縁のある剣神なんて厄介なパーティーだと知ってどれだけ焦ったか。……聖女――ヒカルは賢者職持ちなのに何も知らず、放り出したら大変だからと色々教えて――」
「ああ、そのイレギュラーについてはまあ同情もする。あの国を出るまでの行程はまあ無難な選択だったんだろうが……。お前は嬢ちゃんに構いすぎたよな? 国を出たら即国へ戻れば良かった。――国を出る直前に自分の屋敷へ薬を調達しに戻ってくる余裕があったんだ。ネフシールで街に留まる必要は無かったよな?」
「……。」
「お前には時間をかける必要があったんだよな。あの娘を育てる時間が、あの子の居場所となるパーティーを育てる時間が。――んで、本音ではまだあのパーティーに居たかったんだろう、お前?」
「……いえ。ちょうど頃合いでしたから。基礎は叩き込みましたから、あとは自分で実戦経験を積むのが一番――」
「だからお前は離れ、しかしあの娘が本格的にまずいことにならないよう護衛をつけてる。――十分過保護だろ?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、彼――魔王陛下は俺の秘蔵の酒のありかをちらちら盗み見る。
「わざわざ俺を敵に回すことの無いようにあんな会わせ方をしたんだろう? 全く確信犯めが。……で、あの娘がお前の嫁に来てくれるのは何時になるんだ?」
「……さあ? 何を仰っているのか分かりませんが」
「くくくくくっ、お前がなんの確証もナシに惚れた女を手放すクチかよ。戻ってくると思うから今は手を離した……フリして実はてぐすねひいて……って……。――普通は引かれるぞ?」
「その時はその時でまあ何とかしますよ」
「……お、認めたな?」
「――そうですね。陛下がお持ちになるどこぞの頭の足りない見合い相手よりは余程も良いと――そう思いますよ?」
「お前……」
「陛下、行き場を無くし生きる気力も失っていた俺を拾って育てていただき爵位まで与えて下さったご恩に報いたい気持ちは御座います。ですが、この件に関しては手を引くつもりはありません」
「……少々あの嬢ちゃんに同情したくなったぞ」
ぐだぐだと陛下はワイングラスを傾ける。
この間はその席にヒカルが居たんだが。……自分で連れ込んだくせに、まるでそれが夢だったかの様だ。
確信なんてもの、あるはず無い。あるのは……あまりに強く望んでしまえばその重みに潰れて無に帰してしまいそうな夢だけ。
そう、かつて何も知らずに無邪気に過ごしていられた遠い過去の様に――。
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