66 / 192
急転直下の激震
6-8 リーダー交代
しおりを挟む
ああ……朝日が眩しい。
あれから一晩。――夕食の後にもまた一悶着あっての寝起き。
初日の出なんか気にする余裕もなく熟睡した後の、この世界で初めて迎える新年だ。
けど……ねえ……。
「だから言っただろう、杞憂だと」
涼しい顔で朝食を食べるイマルがどうにも憎らしくてしょうがない。
昨夜、食事を終えて後問題になった事。
当初の予定じゃ街中でご飯食べたら普通に家へ戻るつもりでいたのよ!
……幸い最近じゃ大抵の物を収納空間に放り込む癖がついてしまって、着替えに困る事態は避けられたけど。
この食堂の奥が彼の仮眠室らしく、当然のように私もそこで寝るものと決まってるって、おかしいでしょう!?
ええ、そりゃ、何度も野宿はしましたけど、マリーもケントも一緒だったでしょう!
だから宿屋では男女別だったし、今の家もそう!
なのに。
「確かに城には客室くらいいくらでもある。が、今のお前は正式な客人として招かれた身ではなく、身元保証があやふやな身で後ろ楯もない。――俺の屋敷はちと遠いしな、一人にさせる訳にはいかないんだ」
とかなんとか言いくるめられて同じ部屋で寝る羽目になった。
――まあ、結果としては色々疲弊しきってた私が熟睡しちゃって何もなかったけど。
……それはそれでなんか悔しい気がする。
「……お前を送って――あいつらに事情を話したら。俺は銀の剣を辞め、この国に戻る。あいつらがどういう結論を出すか。……お前も身の振り方を考えておけ」
彼は朝食を終えると元の旅装に着替え、人に命じて馬車の支度をさせた。
「――戻るぞ」
昨夜の逆回しのように。門の外まで送ってくれた馬車を降り、そこからカイルに乗っての空の旅。
昨日と違って明るい日差しの下を飛ぶのはまた違った爽快感があるのに。
ちくちくと不安ばかりが膨らんでいく。
イマルが居た事で得られていた安心感。……彼に頼っている自覚はあったけど、それが失われる穴は大きい。
……不安しかない。
やっぱり偉そうに賢しく生意気な事なんか言わずに素直に保護して貰っておけばよかった?
でも、それじゃ何のためにこの一年私は冒険者として必死に訓練してきたの?
その大半を担ってきたのはイマルでしょ?
「――お前は、選べるんだ。自分で未来を選べ」
「え?」
「元の世界に帰る未来は、俺には選ばせてやれない。けど、それ以外ならお前は選べるんだ、自分の生き方を。……お前の元の世界の教育は本当に凄い。考える頭を持たないその辺の令嬢なら、王の提案に一も二もなく飛び付いただろうにな。お前は王が口にしなかった懸念に自分で気付いて自分で考えられる頭がある」
さらさらと降り始める霧雨に日の光が当たって虹色の輪が架かる。
「俺はあの時何も知らないガキだった。何かを考える頭もなく、ただ感情のまま腐って――人間ですらなくなって。全てを与えてくれた王にすがるしか生き方を知らなかった俺と、既にこの世界を生きる為の最低限の知識と膨大な異世界の知恵を持つお前は、違う」
そう言うイマルは誇らしそうだけど、でも寂しそうでもあった。
「だから、お前は好きに生きればいいんだ。……その上で、いつかウチの国に来る気になったら俺の所へ来れば良い」
――彼はそう言って。
二日後。
前日一日かけてマリーとケントに事情を打ち明けたイマルは、正式に銀の剣を脱退。
パーティーリーダーの役をケントに押し付けて、本当に居なくなってしまった。
その日は雨期らしく一日中止まない雨が強く降り続いていて。
私は一人森で魔法の訓練に明け暮れ、何故か止まらない涙を誤魔化していた。
あれから一晩。――夕食の後にもまた一悶着あっての寝起き。
初日の出なんか気にする余裕もなく熟睡した後の、この世界で初めて迎える新年だ。
けど……ねえ……。
「だから言っただろう、杞憂だと」
涼しい顔で朝食を食べるイマルがどうにも憎らしくてしょうがない。
昨夜、食事を終えて後問題になった事。
当初の予定じゃ街中でご飯食べたら普通に家へ戻るつもりでいたのよ!
……幸い最近じゃ大抵の物を収納空間に放り込む癖がついてしまって、着替えに困る事態は避けられたけど。
この食堂の奥が彼の仮眠室らしく、当然のように私もそこで寝るものと決まってるって、おかしいでしょう!?
ええ、そりゃ、何度も野宿はしましたけど、マリーもケントも一緒だったでしょう!
だから宿屋では男女別だったし、今の家もそう!
なのに。
「確かに城には客室くらいいくらでもある。が、今のお前は正式な客人として招かれた身ではなく、身元保証があやふやな身で後ろ楯もない。――俺の屋敷はちと遠いしな、一人にさせる訳にはいかないんだ」
とかなんとか言いくるめられて同じ部屋で寝る羽目になった。
――まあ、結果としては色々疲弊しきってた私が熟睡しちゃって何もなかったけど。
……それはそれでなんか悔しい気がする。
「……お前を送って――あいつらに事情を話したら。俺は銀の剣を辞め、この国に戻る。あいつらがどういう結論を出すか。……お前も身の振り方を考えておけ」
彼は朝食を終えると元の旅装に着替え、人に命じて馬車の支度をさせた。
「――戻るぞ」
昨夜の逆回しのように。門の外まで送ってくれた馬車を降り、そこからカイルに乗っての空の旅。
昨日と違って明るい日差しの下を飛ぶのはまた違った爽快感があるのに。
ちくちくと不安ばかりが膨らんでいく。
イマルが居た事で得られていた安心感。……彼に頼っている自覚はあったけど、それが失われる穴は大きい。
……不安しかない。
やっぱり偉そうに賢しく生意気な事なんか言わずに素直に保護して貰っておけばよかった?
でも、それじゃ何のためにこの一年私は冒険者として必死に訓練してきたの?
その大半を担ってきたのはイマルでしょ?
「――お前は、選べるんだ。自分で未来を選べ」
「え?」
「元の世界に帰る未来は、俺には選ばせてやれない。けど、それ以外ならお前は選べるんだ、自分の生き方を。……お前の元の世界の教育は本当に凄い。考える頭を持たないその辺の令嬢なら、王の提案に一も二もなく飛び付いただろうにな。お前は王が口にしなかった懸念に自分で気付いて自分で考えられる頭がある」
さらさらと降り始める霧雨に日の光が当たって虹色の輪が架かる。
「俺はあの時何も知らないガキだった。何かを考える頭もなく、ただ感情のまま腐って――人間ですらなくなって。全てを与えてくれた王にすがるしか生き方を知らなかった俺と、既にこの世界を生きる為の最低限の知識と膨大な異世界の知恵を持つお前は、違う」
そう言うイマルは誇らしそうだけど、でも寂しそうでもあった。
「だから、お前は好きに生きればいいんだ。……その上で、いつかウチの国に来る気になったら俺の所へ来れば良い」
――彼はそう言って。
二日後。
前日一日かけてマリーとケントに事情を打ち明けたイマルは、正式に銀の剣を脱退。
パーティーリーダーの役をケントに押し付けて、本当に居なくなってしまった。
その日は雨期らしく一日中止まない雨が強く降り続いていて。
私は一人森で魔法の訓練に明け暮れ、何故か止まらない涙を誤魔化していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる