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急転直下の激震

6-7 やっとのディナータイムは

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    城の中、イマルの案内で魔王の部屋の次に連れて来られたのは……。
    「俺に与えられた部屋だ」
    扉を開けた先は、応接用と思しき対面に置かれた二人掛けのソファーとローテーブル。その向こうに置かれた重厚な執務机と、両壁いっぱいの本棚。
    見るからに執務室である。
   けど、イマルはその部屋を素通りし、左壁の本棚の影にあった扉を開けた。
    そこはいわゆる続きの間らしく、食事のためのテーブルと椅子の他、ちょっとした休憩に良さそうな寝椅子等が置かれている。
    「座って待っててくれ。――着替えて来る」
    イマルはこの部屋から更に奥へ続く扉の向こうへ消えて行った。
    静かな部屋の中、ぐるりとその設えを眺めてみる。
    ヘルナイトの王城みたいな華美な金キラ装飾の類いはここまで殆ど見なかった。
    たまにちょっとしたアクセントのポイントやラインにあしらわれている程度で品があった。
    その分、艶やかで美しい飴色の私の感覚ではアンティークに分類される木材をふんだんに使った柱や腰壁に白く美しい壁。
    大正レトロな洋館風のレストランみたい。
    「待たせたな」
    て、いやいや一瞬でしたけど……って、何ですかその格好は!
    何王子様みたいな格好してるんですか!
    「流石に城の中でいつまでも平民風の旅装のままなのは具合が悪いからな」
    ただ規則通りに制服に着替えただけ。
    ああ、これは本人は間違いなくそのつもりしかないんだ。
    そりゃ、お伽噺に出てくる金髪碧眼優男風の美青年王子とはだいぶタイプはちがいますけどね?
    イマルだって美形なんですよ?
    黒の詰め襟軍服のような装いに、金のラインと釦飾り。肩章に飾り房。ちょいダークサイド寄りだけど、大変眼福過ぎて私の目にはちょっと目の毒だよ……。
    中身がイマルと分かっているからまだなんとかなってるけどさ。
    いきなり素性も知らないまま彼の前に座らされたら私なんか即ノックアウトされてるよ、瞬殺だよ!
    「閣下、お食事をお持ちしました」
    まともに返す言葉が思い当たらず口をぱくぱくさせていたところに、料理を乗せたワゴンが運び込まれ、給仕が始まる。
    「閣下、お飲み物はいかがなさいますか?」
    「俺はワインを。彼女は……同じものを炭酸水で割ってやれ」
    「かしこまりました」
    「え、あの……私お酒は……」
    「何だ、飲めないのか?」
    「はい……。いえ、私の国では20歳まで酒を飲んではいけない法律が……。あれ、でもここでは違うの?」
    「本当に幼い子どもでもなければ祝い事等の最初の一杯は酒で乾杯するのが礼儀とされる。……炭酸で割ってるから酒精も僅かだし、この国のワインは甘くて旨いとご婦人に人気なんだ、飲んでみろ」
    ワイングラスに注がれる、濃い赤紫色の液体と、シュワシュワ泡の立つ透明な水が合わさる。
    軽く、グラスを合わせるだけの、冒険者達がエールのグラスをがつがつぶつけ合うのとはまるで違う乾杯。
    ちょっと渋めの炭酸グレープジュース。
    ……イマルの方はワイングラスが似合いすぎてもう私程度の語彙ではコメントに困ってしまう。
    「――お前は、魔族に偏見は無いのか?」
    「あー……。その、私の世界では魔法と同じように魔族なんてのはお伽噺の中の空想の産物でしかなくて。でも、架空の物語として楽しむ文化は大変進んでいて、ありとあらゆる仮説に基づいて作られた仮想のキャラクターを使って独自に物語を作ったり、劇みたくしたりと……。それが悪役だっり英雄だったり、もう色々ありましたから」
    そんな物語をこよなく愛していた一人としては――
    「この世界の魔族と言うのが本当に最初に聞かされた通りの、物語の悪役みたいなのとか、魔物の進化形みたいなのだったら、当初の予定通り勇者より先に倒して奴らにざまぁしてやろうと思ったでしょうけどね……」
    ひょいぱくひょいぱくと前菜を食べ進める目の前の男をじとっと睨んでやりながら。
    「魔王陛下もイマルも、イジワルですけど悪人にはどうやったって見えませんし」
    王の方はまあ……立場上まっさら真っ白ってのは無いだろうけど。
    「と言うかやってる事だけみたら、私にとってのってむしろヘルナイト王国じゃないですか」
    「では――」
    「ああ、でもこの国の国籍とか庇護についてはもう少し考えさせて下さい」
    「……何か問題があるか?」
    「いいえ。問題も何も、私が何も知らな過ぎるから。今現在私にがないのはそもそも情報が少なすぎるんです。ヘルナイト王国とのいざこざについては聞きましたけど、人間の国は他にもありますよね?    魔族の国だってこの国だけなんですか?    それらの国との関係や種族間の関係は?    ……何も知らないまま安易に答えられる事じゃないと思うので」
    「――そうか」
    「でも。色々考えていてくれた事には感謝します。本当に。ありがとう――」
    「……そうか」
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