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ラムレアの街で過ごす冬

5-1 お家を借りましょう。

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    ヘルナイト王国王都にこそその派手さに欠ける街並みは、しかしまるでヨーロッパ風のファンタジー世界に迷い混んだような、乙女心をくすぐる可愛い町だった。
    少なくとも私の個人的な趣味から言えば間違いなくこちらの方が好みと言える。
    町の通りは大通りから細い裏路地まで煉瓦色の石畳で舗装され、主要な通りには馬車用の車道と歩道とを分ける煉瓦の縁石が並び、等間隔に街路樹や草木の植わった花壇が配置され、花と緑に溢れる公園も数区画毎に見かける。
    町の家の大半は木造だけど、壁は白に、屋根やサッシは緑に塗られ、まるでピーターラビットのお家みたいな可愛くてお洒落な建物が建ち並んでいる。勿論家毎に間取りも大きさも、細部のデザインだってまちまちだけど、確かな統一感のある街並みが整えられている。
    朝日に照らされたその街並みを目にした私はすぐにこの街が気に入ってしまった。
    今日はギルドに行って拠点となる物件を紹介して貰う予定なんだけど……、もう今から楽しみで仕方ない。
    だって、意気揚々と訪れた冒険者ギルドは――。
    木材として最低限の加工だけが施された丸のままの丸太を豪快に積んだログハウス仕様で。
    この街の建物としては飾り気もなく武骨な印象だけど、これはこれで味がある。
    何よりこれまで見てきた他の支部よりは素敵だ。
    冒険者ギルド併設の酒場にテラス席があるとか。そのテラス席をグリーンで彩る植物の装飾とか。
    中へと入ってみれば、ここがエルフの森の家であるかのように、自然な木々と緑が素朴なお洒落感を生んでいる。
    ……無論、受付のお姉さんは美人だけどエルフじゃなく人間だけど。
    その彼女に用件を伝えると、担当者を紹介してくれた。
    「どーも。んじゃ、ここだと迷惑になりますから、ちょっとこっちで話しましょかー」
    妙に間延びした喋り方が印象的な、男の人。……イマルさんよりは年上に見えるから……30くらいかな?
    冒険者ギルドに居るのが場違いな……銀行マンに居そうな細身のインテリタイプ。ただ、その喋り方のせいかチャラい印象を受ける。
    その彼に促され、酒場とは別に幾つか置かれたテーブル席へ誘われる。
    「さてさて、物件をお探しとの事ですが、どんなんをご希望で?」
    「そうだな、最低限二人寝られる規模の寝室が二つあればいい」
    「え、キッチンは?    風呂……は無理でも、短期滞在の宿暮らしじゃないんだから、水回りは必要じゃないですか?」
     「……風呂がない家はごまんとあるが、便所のない家はどんなボロ屋でも聞いた事がない。小屋なら分からんが、家なら必ずあるさ。……まあ予算によって便所のシステムは変わるがな。それと。台所があったとして、誰が料理をするんだ?」
    ……そうだった。
    三人とも、野外料理は出きるけど。
    マリーさんはその出自から普通の料理経験ナシ。というか、野外料理が出来るだけで驚きだしね。
    ケント君も、野外料理や、野山で採れるあれこれをオヤツにして食べるための調理、お手伝いとして野菜の皮むきとかの下拵えは出来ても、料理はしたことがないそう。
   「……俺も、数日誤魔化す程度なら何とかなっても、毎日の飯となると無理だ」
    と、なると。
    「ヒカルはどうだ?」
    「……元居た世界でなら最低限の料理は習いました。けど、こちらの世界では手に入らない調味料や食材も多いし、こちらで見る食材が私にはまだ分からないものが多くて、どこまで出来るか――」
    「……ふむ。ならばあえて我がパーティーの食事情の改善を試みると言うなら検討してみるか?」
   「へ!?」
   「この街には冬期の間、少なくとも三ヶ月は滞在予定だ。これまでは余裕がなくてこの世界の事について教えてきた内容には偏りがあったからな。……ここらでもう少し常識を知って貰おうか」
    イマルさんがニヤリと笑う。
    「と言う訳だ。台所のある家を頼む。それと――」
    「はいはい、それなら幾つか候補がありますよ。早速見に行かれますか?」
    「ああ、頼む」
    ……うん。おうち見るのは楽しみだけどね。
    私、余計な藪をつついた自分の口が恨めしい。
    何ですか、イマルさんはチャレンジャーですか?
    学校の調理実習で失敗した事はないけどね、未知の食材や調味料を使うんだもの、メシマズさんにジョブチェンジしない保証はどこにもないのよ!?
    ――真剣に叫びたかったんだけど……。
    赤の他人の男性がいる前でのメシマズ疑惑を叫ぶのは躊躇われ……。
    気がついたら、キッチン風呂付(トイレ別)の3LDKの戸建てを借りる事に決まっていた。
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