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勇者Side - Spin off - ①

α-1 召喚されました。

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    それは、ある日の何て事無い普通の朝の光景のはずだった。
    ただ、いつものバスに乗っていた時の事。運悪く始発のバスで座席の確保に失敗し、朝からちょっとついてない日だと思っていた。
    混雑した車内では前方の様子なんて見えなかったから、原因は分からないけど、とにかく運転手が急ブレーキをかけて。
    踏ん張り切れず他校の制服を着た目の前の座席に座る地味な女子高生のに倒れかかって。
    ――次の瞬間、私は――私達はバスの中どころか日本のどこかとも思えない豪奢な建物の中に居て。
    「ようこそ、聖女よ!」
    と、オーバーリアクションするオジサマらに取り囲まれ、連れていかれた。
    そこは、恐らく謁見の間――例え違っても用途的には大差ないはずの広い部屋だった。
    気づけばあの地味子ちゃんは居なくなってたけど……取り敢えず彼らの言う事にはこの世界には魔王が居て、それを倒すために聖女として旅立って欲しいと。
    私の護衛として国内選りすぐりの勇者パーティーが供につくから、と。
    翌日引き合わされた彼らは……何というか、私はもしかして乙女ゲームか何かの世界に転移してきたのかと思う程のイケメンハーレムで。
    いや、私は2次元男に興味ないから少女漫画とか乙女ゲームとかしないから、もしここが本当にラノベみたいな乙女ゲームの世界でも何の予備知識もないんだけど。
    でも、冒険ものの少年漫画やRPGゲームは好きだし、リアルイケメンは勿論大好物だし。
    私――菊地桃子きくち ももこは勿論即座にOKした。
    ……けど。これまで読んだラノベに比べてチート要素が少なくて、鑑定の結果聖女としての能力があることは確認されたけど、即チートスキルやステータスで無双出きる訳じゃなかった。
    スキルを使いこなすにはそれなりの訓練が要るなんて……。
    ちょっとここの神様手抜きしてません?    今からでも遅くないから、チートスキルくらい恵んでくださいよ。
    え、聖女が既にチート?
    いや、これは単なる希少職であってチートとは別物でしょう?
    肩書きで左団扇できるなら確かにチートだろうけど、か弱い女子高生な私にこんな過酷な訓練を強いるなんて、チートじゃないじゃない!
    だって、アニメで見た醜いゴブリンがリアルで目の前に出てくるのよ!?
    画面の向こうの二次元と生身のリアルの差は、乙女ゲームとリアル男子の差以上に生々しくて……。
    え、何……。何で血なんか吹くの!?    だって、ゲームじゃ死体は消えて無くなってドロップ品が残るだけよ?
    なのに……この血臭は何?
    なんでゴブリンの死体がこんなに生暖かいの?
    私が聖女だから先頭切って戦わされる事は無いけど、念のためだからって細身の剣を握らされて、言われるがままゴブリンを切った。
    予め皆が弱らせてくれたゴブリンに、とどめの一撃を入れただけなのに……。
    なんでこんなに震えてるんだろう?    なんでこんなに吐き気がするの?   なんで……ゴブリンの死体がこんなに生暖かいの?
    血の色は赤くて、鉄臭くて……。
    それを、平気な顔で屠り、死体から耳を切り取っていく彼らが、まるでオーガの様に見えて……。
    そこで初めて、私は選択を早まり間違った決断をしたかもしれない事に気付いたんだけど……。
    既に時遅く。
    派手なパレードでお披露目された私に逃げる場所なんて……どこにも無かった。
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