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磨いた結果は自分次第です

4-6 旅は道連れ世は情け

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    この世界に来てからこっち、乗り合い馬車、と何度も耳では聞いた言葉だった。
    けど、これまで街道で私達を追い抜いていった馬車の大半は一頭か二頭立ての二~四人乗りの馬車や、荷馬車ばかりだったから、乗り合い馬車もそんな物とばかり思っていた。
    だから、それが御者を除いても十数人も乗れる四頭立てのこんなにも大きな馬車とは思っていなかった。
    小型のコミュニティバス程の床面積の幌付き馬車は、この世界の文明水準から期待もしていなかったスプリングの利いた乗り心地の良い物で。
    勿論日本の車や電車に比べればお粗末な物だけど、無いより数倍ましだ。
    「へえ、兄さんたちはヘルムーンから来たのかい!    じゃあ知ってるかい、あの国が最近持て囃してる勇者やら聖女やらって」
    一緒に乗り合わせた気の良さそうなおいちゃんが世間話の体で話しかけてくる。
    「ええ……まあ……」
    船の中や港町では注目されていたイマルさんも勿論同じ馬車に乗り合わせているんだけど……。
    「港に魚の仕入れに行ったついでに何か目新しい情報を仕入れられないかと思ったんたが……商業ギルドにゃ大した情報はあがってなくてよぉ。……冒険者ギルドにゃもしかしたら何か情報もあったかもしんねぇけど、用もないのに行くと絡まれそうで怖くて行けねぇしよぉ」
    どうやらこのおいちゃんは何らかの商いを生業としている人らしい。
    「はははっ、旦那は臆病だねぇ。まぁ、冒険者ギルドに用も無しに行かない方が良いって意見にゃ同意するがねぇ」
    こちらは恰幅の良い肝っ玉母ちゃん風味のご婦人。
    この近くの農村の住人らしい。
    今日は作物を荒らす小動物の駆除の依頼を出しに冒険者ギルドを訪ねたそうだ。
    「似たような依頼はごまんとあるからねぇ、果たして受けてくれる冒険者が現れるのがいつになるか……」
    一応村にもギルドの支部はあるが、他のギルドと建物が一緒で、各ギルドの担当がそれぞれ一人しか居らず、常駐する冒険者も居ないから、結局こうして馬車代を負担してでも港町まで出て依頼するも、なかなか引き受ける者が居ないらしい。
    「――俺たちも冒険者だ、俺たちで不満がなければ行き掛けにその依頼を受けよう」
    「あはは、畑を荒らす輩の退治ですか。いやー、僕の十八番、独壇場です!    たまにはイマルさんより格好いいトコ見せとかないとそろそろ僕の存在感が大ピンチんで、張り切っていきますよー!」 
    「ええ、良いのかい?」
    彼女の村は宿場町ではない、それより手前の村。
    途中で降ろさせる格好になる事にひどく恐縮していた。
    「何、そこまで急ぐ旅でもない。幸いこの通りやる気になってるメンバーが居ることだし、構わんさ」
    と、いうわけで、港町を出て半日あまりで馬車を降り、途中の農村に立ち寄ることになった。
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