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磨いた結果は自分次第です

4-4 ネフシールへようこそ!

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    翌朝。
    パンとスープとフィッシュアンドチップスみたいな魚のフライという朝食を食堂で食べてしばらく。
    ようやく前方に対岸の輪郭がうっすらと見え始め、徐々に徐々にその詳細が露になる。
     港の他は手付かずの自然のままだった向こうの岸とは対照的な景色が広がるこちら側の港。
    そも、港自体があちらではこの渡し船の為だけに造られたようなごく小規模なものだったのに、こちらは幾つも桟橋が伸び、それぞれ用途も船体の規模もまちまちな船が幾つも停泊している。
    港に付随しているのも、宿泊施設のみならず、市場や各ギルド支部、食堂や酒場にと賑やかな紛れもないが川に沿って広がり、その先には漁港や、町の外れには軍船らしい大砲を積んだ船が停まる軍港まである。
    軍港近くには見張り塔もあるけど、それもまたあちらとは別物……というか、建物全般からしてこれまで見てきたこの世界の建物とは一線を画す。
    いや、王都で見た建物は立派だったけど、それ以外の粗末な木の家ばかりだったから。
    王都を出てから初めて色とりどりの石造りの家を目にした。
    岸辺に近付くにつれ、人々の様子も目に入ってくるようになり、庶民にしては良い物を身に着けているのが見えてくる。
    まあそれも日本の物のレベルに慣れた目からすればまだ粗末な物なんだけど……。
    でも、これまでこの世界では裕福な商人でもなければ着られないんだと思っていたレベルの服を大半の人が身に付けているんだから、この国との国力の差は文字通りの一目瞭然だった。
    この定期船の専用らしい桟橋にはアーチがかけられ「ネフシールへようこそ!」と書かれている。
    「あの、ネフシールと言うのは……」
    「ええ、この国の名前ですわ」
     向こうの国には無かった歓迎の文言。
    ちなみに、私を除くうちのパーティーメンバーの祖国の名前、今さらながらに聞いてみた。
    「ヘルナイト王国ですわ」
    えーと、これは翻訳機能のお茶目な偶然なのかな、ヘル地獄に……かNight騎士Knightか知らんけど……どれにしたって不吉な想像しか出来ないんだけど……。
    まあ、早々に脱出できたのはありがたいやね。
    ――さて、船内で入国審査を済ませ、いざ上陸。
    流石に旗振ってまで歓迎してくれる観客なんてモノは無いけれど、港を出て町に一歩入れば、実に生き生きとした口上を張り上げる声があちらこちらから幾つも重なり、賑わう市場が出迎えてくれる。
    扱われている商品は川魚を中心に野菜や香辛料等庶民的な食材が大半ながら、良い物が当たり前に陳列されていて、あちらこちらで元気に値段交渉に挑む客と店主が真剣勝負をしたり、井戸端会議を楽しむオバチャンらの笑い声が幅を聞かせていたり。
    何だか圧倒される。
    「ほあぁぁ、話には聞いてましたけど、やっぱり見ると聞くとじゃ大違いですね……。ただの港町でもこんなに違うなんて」
    「悔しいですが……やはり民が活発な国は賑やかで良いですね」
    「……ここはこの国じゃ辺境なんだがな。――取り敢えず冒険者ギルドに寄って、ここからどの街へ向かうか決めよう」
    
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