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磨いた結果は自分次第です

4-3 世界のスタンダード

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    さて、日も沈んで窓の外の景色が闇一色となった頃。
    夕食を食べる為、私達は一階の食堂にやって来ていた。
   この船で部屋での食事を許されているのは一等船室の客のみで、他のその他大勢はこの食堂で食べる。
    出されるメニューは皆同じ。パンとスープと主菜の川魚というシンプルな献立。
    ……まあこの船を使うのは基本一般庶民で、一等の客もせいぜいが裕福な商人や高位の冒険者。
    質より量、と言うことでパンと主菜のおかわりは自由らしく、腹に詰め込むのに必死な者達の集うそこは存外静かなものだった。
    おおよそ、冒険者らしい出で立ちの人が三割、商人らしい出で立ちの人が四割程だろうか。
    他は……旅行者、なのかな?
    「冒険者や商人でもなければ、国境越えの移動は困難です。あれは恐らく次男以下の爵位を継げなかった元貴族の学者か、若しくは国を持たない流民の芸人でしょう」
    あの国の在り様は極端だけど、魔物が居る世界であるのはどの国でも変わらず、王候貴族が平民を従える構図も基本は一緒。
    上の者の心一つで国の在り様は変わる。
    「あちらの港や町は、我が国のそれよりも栄えていますが、上を見上げればまだより優れた国はある。けれどそれが貴族の目から見て羨ましい国なのか、と言えば……。その感覚の差がそのまま国の差になっているのです」
    だから、下を見ればやはりまだ下は居るようで。
    「ですが、うちより下の国は多くありません。その大半は土地柄元々厳しい生活を余儀なくされるような過酷な地を国土としている国です」
    いかに上が善処しようと追い付かない厳しい自然環境の国もある。
    それは……比べたら失礼だよ。
    「今回の聖女召喚は、あくまで我が国の独断で行われたことで、公には他国へ情報は渡していませんの」
    けれど、国内ではそれはそれは盛大に宣伝していた。
    「当然、各国の上層部は情報を掴んでいるでしょう」
    勇者や聖女に対し、各国がどう出るか。
    「国を出られて一安心は出来ましたが、今後も情報収集は怠れません」
    「この冬はやはり様子見も兼ねてしばらくどこかの町に落ち着くのが良さそうだな。港に着いたら改めて目指す先を決めよう」
    マリーさんが五回目のおかわりを食べ終わるのを待ち、私達は部屋へ戻った。
    ……イマルさんの知名度は本当に凄くて、食事中こそ静かだったけど、部屋へ戻る道中に何度も声をかけられてはその都度素っ気なく断り続けるイマルさん。
    さっきの失礼な連中は論外だったけど、こう見ていると当たり前だけどちゃんと礼儀を弁えた誘いが大半だ。
    中には魅力的な誘いもあったのに、それでも断ってしまうイマルさん。
    ……ここでイマルさんに抜けられたら物凄く困ってしまうから私からすれば嬉しいんだけど。
    どうしてイマルさんはこのパーティーに入ったんだろう……?
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