屋台飯！ いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

第二章

私達は商人なのですが？

　「はぁ、納得いかない……」

　結局、伯爵様に依頼されたのは。

　領地の南と東をそれぞれ海と川がそのまま境という土地柄、港町が多いんだそうで、物流の盛んな土地らしい。
　しかし、多く港を抱えるが故、それぞれの特色というのも特に無く、ぱっとしない。
　少なくとも他所から来た者が、時々来る港を間違える位には。
　よって、その特色造りに最近の伯爵様は注力しているんだそうで。

　その一環として、私達にそれぞれの港で名物になりそうな料理を作れ、というもの。

　「私達はボランティアじゃなく、商業ギルドに所属する商人なんですけどねぇ……」

　依頼そのものの内容自体はまあ面白そうではある。
　しかし、問題はそこではない。

　「船の手配はしてくれるって話だけど、旅費や滞在費は私ら持ち、営業の為の材料費含めた経費も私ら持ちの上、“報酬”はその場所での売上金のみ。
　しかもある程度人気が出たら、レシピを献上しなくちゃいけなくて、それ以後私達はそのレシピで料理を提供する事を禁ずる――
　……ふっざけんなってのよ」

　レシピを買い上げると言うならまだしも、報酬はゼロ、そのうえわざわざチャーターしていただいた船の運賃まで私ら持ちとか。

　「ないわー」

　と。一見横暴な話だけど、相手が貴族様でこちらは平民。
　この程度の横暴は横暴とは言わないらしい。

　度重なる不正な徴税や、領地経営の放棄などがあれば別だが、この程度の話は誰も箸にも棒にもかけてくれない。
　……残念な事に、そういう意味ではあの伯爵様、むしろ評判は良いそうだ。

　実際、うちがもっと大規模な商会なら、この程度の事は宣伝費だとでも考えられただろうけど。

　「……その、チャーター代は……、陸路で行くのではいけないのですか？」
　船のチャーター代は、幸い、と言って良いのか……前世の感覚で言えばタクシー料金程。チャーターの飛行機やクルーザー代金レベルでなかったけれど。

　「陸路では、すべての街を巡るのに時間がかかり過ぎます」

　と、伯爵様から案内人にとつけられた美青年、アンドリューに呆気なく却下された。

　「馬を売れば少し船代は安くなりますよ」

　その上そんな提案までされた。
　いやマジふざけんな？　行商人にとって馬は大事なパートナー。
　その大事なパートナーを大事にできない奴は行商人失格の烙印を押される。
　ましてやウチのクロエはロイスのご両親が用意してくれた、私の良き理解者でもある。
　それを、簡単にホイホイ売れるもんですか。

　これ、確実に赤字案件なんだけど。
　大商人ではないウチにとっては死活問題です。

　あーあ、庶民感覚の分からないお上ってこれだから嫌なんだよ。