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第二章

海のご馳走

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 甘く、とろける脂。

 以前握り寿司は食べたけれど、やはり新鮮な海の幸の味は別格で。

 タイかな?
 白身の魚は脂控えめであっさりしているけれど、しっかりした甘さを醤油の旨味が引き立てる。
 甘海老はねっとり、イカはシコシコした歯ごたえが小気味いい。これは……スルメイカかな?
 タコは茹でダコだったけど、きゅっとしまった身と旨味がたまらない。
 ブリかハマチか……ああ、たっぷりの脂をわさびがキリリと引き締めてくれる。
 サーモンにマグロはもう言うこと無し。
 いくらにウニ。
 丼の底の酢飯がそれらの味をまとめ上げる。

 私は至福のひとときを存分に味わい楽しんでいた。

 「うーん、やっぱり魚料理の至高はお刺身だと思うの」

 ……料理人が聞いたなら落胆しそうな感想をついつい口にするシャリー。
 本当に美味しいお刺身を作るにはそこそこ技術が必要とはいえ、基本生の魚を捌いて切りつけて盛るだけの料理。

 焼いたり煮たりもしなければ、調味料は醤油、場合によっては塩のみという工夫のしがいのない料理。

 一応懐石料理の一品目にあるものではあるけれど。
 他にいくらでも手をかけられる料理はあるのに。

 「……まぁ、美味いけどさ。そこまで?」

 ……まぁ。刺し身に飢えていた元日本人だからね、私は。
 ロイスよりその感動は何倍も大きいのですよ。……言えないけどね、転生云々なんて話は。

 「ははは、それだけ美味そうに食ってくれるなら俺も料理のしがいがあるってもんよ。よし、おまけでイクラのおかわりタダにしてやろう」
 「え、いいんですか? うわー、嬉しい!」

 ツヤツヤ輝く赤いつぶつぶが食べかけの丼にお玉一杯に追加される。

 「ふわわわわわ~」

 海鮮丼が瞬時にイクラ丼に衣替え。
 醤油漬けのいくらの、プチっと感を楽しみながら、酢飯を頬張る。

 ああ、至福……。

 「確かにこのイクラっての? 何か癖になる味と食感だよな」
 「うん、ぷちぷちしてておもしろーい!」
 「何より見目が綺麗だな」

 ああ、これが食べられただけでもこの待ちに来たかいがあったというもの。

 だけど。
 「この街で商売するなら、当然メインは海の魚よね。さぁて、どう料理したものか……」

 空になった丼を前に、緑茶で口の中をリセットしつつ考えを巡らせる。

 「いやぁ、嬢ちゃんマジに良い食べっぷりだったな!」
 店の親爺さんに会計を頼むと、空いた食器を下げつつご機嫌で褒められた。
 「ええ、海の魚が好物なの」
 「ほう、ならお勧めの鮮魚屋を紹介してやろう。あそこのヤツはハズレがねぇ。良い魚を安く売る、良い店だ」

 おお、ラッキー。
 「ありがとう」
 「おう、また来てくれや!」
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