80 / 125
第二章
行商隊との交流
しおりを挟む
「ん、あれは……?」
「ああ、一月か二月に一度来る行商隊さね。
あんたらみたいな個人の行商は決まったもんしか商わないだろ?
だがあの商隊は色んな物を商ってくれるからな、こんな辺ぴな農村じゃ立派に娯楽の一つになってるのさね」
ある日の旅の途中、自分達で食べる分の食材を買い足すため寄った農村で、ぞろぞろと続く馬車の列を見つけた私達が村の人に問うと、彼らはそう答えてくれた。
馬車の列は、村の広場に止まるといくつかの馬車を展開して、そこに商品を並べていく。
後ろにまとめられた馬車はどうやら旅の間の彼らの寝床やキッチン車の様で。
なる程、数があるとこういう事も可能なのか、と感心してしまう。
しかも並ぶ商品は食材から惣菜、衣服に生地や糸の他に裁縫道具もある。
ちょっとしたアクセサリーも、農具や生活雑貨や日用品。
それに少しお高めの値段設定ながら、娯楽雑誌まである。
実際には購入せずとも、ウィンドウショッピングしながら店を冷やかすだけで楽しい事を、勿論私はよく知っている。
おばちゃんから若い娘まで、女性が主に馬車に群がり、商店に華を添えていた。
その勢いに少々引きつつ、男性陣がその後方から興味のある馬車に寄っていき、じっと眺めた後で、一言二言店員と言葉を交わして欲しい物を購入する。
男女の差が如実に出ていて見ていて面白い。
私も食材や調理器具など良いものがあれば……、と、村人たちの集団が少し減ってきた頃を見計らって商隊に近づいた。
まぁ、どちらも珍しい物ではなかったんだけど。
それよりも、だ。
「な、なに、コレ……」
気になったのは娯楽雑誌の表紙にデカデカ書かれた見出しの文言だ。
『勇者が絶賛、屋台飯専門の行商人!』
『絶品肉飯、出会えたらラッキー!?』
『店名は不明、幻の屋台飯か?』
「………………。ねぇ、これ……」
「……もしかしなくとも俺たちの事っぽいよな、これ」
行商人や村人たちに聞かれないようこそこそと話し合う。
「こないだからちょいちょい聞いてた噂って、これの事か!」
幸い、まだ特定はされていないみたいだけど。
「お、大事じゃない!」
何せあの日勇者に出したのは残り物の有り合わせ飯をなのだから。
「しかもアレ、自称じゃなく本物勇者!?」
マジか。
どうしても気になって、買ってしまいました……。
思わぬ出費だよ、ぐすん。
「あの勇者め、あの後パーティーメンバーに自慢した挙げ句所構わず喋りまくってくれたのね……?」
勇者と似たりよったりなパーティーメンバーが羨ましがり、私達を探し始めているとのこと。
その上あの晩の話を吟遊詩人らが好んで歌って回ってもいるらしい。
「な、なんて事! 私は大人しく屋台営業が出来ればそれでいいのに! 勇者も魔王もノーセンキューなのに!」
「ああ、一月か二月に一度来る行商隊さね。
あんたらみたいな個人の行商は決まったもんしか商わないだろ?
だがあの商隊は色んな物を商ってくれるからな、こんな辺ぴな農村じゃ立派に娯楽の一つになってるのさね」
ある日の旅の途中、自分達で食べる分の食材を買い足すため寄った農村で、ぞろぞろと続く馬車の列を見つけた私達が村の人に問うと、彼らはそう答えてくれた。
馬車の列は、村の広場に止まるといくつかの馬車を展開して、そこに商品を並べていく。
後ろにまとめられた馬車はどうやら旅の間の彼らの寝床やキッチン車の様で。
なる程、数があるとこういう事も可能なのか、と感心してしまう。
しかも並ぶ商品は食材から惣菜、衣服に生地や糸の他に裁縫道具もある。
ちょっとしたアクセサリーも、農具や生活雑貨や日用品。
それに少しお高めの値段設定ながら、娯楽雑誌まである。
実際には購入せずとも、ウィンドウショッピングしながら店を冷やかすだけで楽しい事を、勿論私はよく知っている。
おばちゃんから若い娘まで、女性が主に馬車に群がり、商店に華を添えていた。
その勢いに少々引きつつ、男性陣がその後方から興味のある馬車に寄っていき、じっと眺めた後で、一言二言店員と言葉を交わして欲しい物を購入する。
男女の差が如実に出ていて見ていて面白い。
私も食材や調理器具など良いものがあれば……、と、村人たちの集団が少し減ってきた頃を見計らって商隊に近づいた。
まぁ、どちらも珍しい物ではなかったんだけど。
それよりも、だ。
「な、なに、コレ……」
気になったのは娯楽雑誌の表紙にデカデカ書かれた見出しの文言だ。
『勇者が絶賛、屋台飯専門の行商人!』
『絶品肉飯、出会えたらラッキー!?』
『店名は不明、幻の屋台飯か?』
「………………。ねぇ、これ……」
「……もしかしなくとも俺たちの事っぽいよな、これ」
行商人や村人たちに聞かれないようこそこそと話し合う。
「こないだからちょいちょい聞いてた噂って、これの事か!」
幸い、まだ特定はされていないみたいだけど。
「お、大事じゃない!」
何せあの日勇者に出したのは残り物の有り合わせ飯をなのだから。
「しかもアレ、自称じゃなく本物勇者!?」
マジか。
どうしても気になって、買ってしまいました……。
思わぬ出費だよ、ぐすん。
「あの勇者め、あの後パーティーメンバーに自慢した挙げ句所構わず喋りまくってくれたのね……?」
勇者と似たりよったりなパーティーメンバーが羨ましがり、私達を探し始めているとのこと。
その上あの晩の話を吟遊詩人らが好んで歌って回ってもいるらしい。
「な、なんて事! 私は大人しく屋台営業が出来ればそれでいいのに! 勇者も魔王もノーセンキューなのに!」
41
お気に入りに追加
990
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる