屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜

文字の大きさ
上 下
75 / 125
第二章

初の営業依頼

しおりを挟む
 「待たれよ! そこの馬車、止まれぃ!」

 城から全力で駆けて来る騎馬。
 馬上の男が大きく声を張る。

 ……当然だけど、私達の周囲に他の馬車なんか居ない。
 やっぱりあれは私達に用があるらしい。

 「……何もしてないはずなんだけどなぁ」
 「ここは、普通にいつでも通れる街道だ。勿論通行止めだなどとは聞いていないし、たかだかあの程度の演習のために通行止めなど聴いたこともない」

 しかし、騎馬はあっという間に馬車に接近して来た。
 特にやましい事もないはずなので、大人しく待つ。

 「あい、すまんがそなたらは行商人であるか?」
 「はい、私達は行商人です。……ただ、私達の商うものは“料理”でして。その為の材料となる食材は積んでおりますが、特に売り物となる様な物は何も持ち合わせていないのですが」

 成程、行商人を呼んで買い物がしたかったのか。
 そう思い、少しだけ申し訳ない気分になる。
 最初から無いと分かっていれば諦められるものも、一瞬希望が見えたあとだとその落胆は大きいよね。

 が、だ。

 「料理……、つまり噂の屋台をやると言う行商人か?」
 「はい、……いえ、噂云々はよく分かりませんが、私達が屋台で料理をし、皆に振る舞う事で収益を上げている行商人なのは間違いありません」

 「ならば、その営業を我らの砦で行っていただく事は可能かな……?」

 騎馬に跨がるその彼が言うには、基本訓練中の砦では兵士達が交代で調理役を担い、自炊しているそうだけど。
 所詮素人の作る男の料理。
 質より量の食事に慣れた彼らでもうんざりする食事が続くのが慣例らしいのだけど。

 そんな所に通りかかったのが私達、という。

 「えーと、皆様何人程居らっしゃるのでしょう……。食材もあまり量は持ち合わせていないのですが……」

 他で手に入れ難そうな中華特有の食材は前の町でそれなりの量を買い込んだけれど、基本その町で手に入れて営業するのが私達のスタイル。
 ただでさえ大食らいの体育会系の男達の胃を満足させられる様な、それもさっき見ただけの人数は最低でも居る……そんな量の食材がある訳ない。

 ……食材が足りる一部の者にのみに料理を提供しようものなら。
 恐ろしい未来が容易に想像できてしまう。

 「食材でしたら、砦にある物をお使いいただいても、この近くの村から取り寄せていただいてもかまいません」

 まぁ、それなら……。
 それにこれって、初の営業依頼よね?

 ちょっと……、いややっぱかなり嬉しい!

 「分かりました。それでしたらお引き受け致します」
 「おお! ありがたい! 是非お頼み申しますぞ!」

 こうして私達は城に招き入れられる事になった。

 けど……、さっきちらっとでて来た噂って……。
 前の町のギルド員さんも気になる事言ってたよね……?

 何の事なんだろう……?
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...