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第二章

背水の陣

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 段々と日が暮れて。
 山の谷間のここは、太陽が山に隠れるともう暗くなる。
 このあたりで一番高い山を含んだ山脈の頂は、地平線より遥かに高く、よって平地に比べて暗くなるのがかなり早い。

 だから、私も昼食の後、普段にも増してテキパキと働いた。
 どんなに私が頑張っても、食材の加熱時間とかそういう時間は短くなったりはしないから。

 「鍋や調理器具の洗い物なら俺にもできる。シャリーとロイスは調理に集中してくれ」
 「私も、雑用なら出来るから、何でも言って!」

 「ありがとう」

 いや、ホントにありがたい。
 これで失敗したら命がないなんて、まさに背水の陣だからね。
 真剣にもなるってもんよ。

 いや、普段はいい加減にやってたとか、ふざけて料理してるとかじゃないけど。
 それでも皆と会話したりしながらほのぼのと仕事してたからね。
 気にするのも売上とか赤字にならないかとかその程度の事だったし。
 だから、料理だけにこんなに集中するなんて初めての事でもあった。

 そのせいかな、いろんなタイミングとかさじ加減とか。
 色々いつもより上手くいった気がする。

 「……出来ました。料理をお出しして良いですか?」

 「そうさね、もういい時間だ。これ以上遅くなれば、今夜のご馳走までに腹が減らなくて困る事になりそうだからねぇ」
 「なら、夜中はお腹が空いて眠れなくなるかもしれませんね。それとも夜中までにまた山で獣でも狩って来ますか?」
 「ふん、生意気な小娘だね。そんな大口をいつまで叩いてられるか……ヒヒヒッ、見ものだねぇ」

 「では、こちらへどうぞ」

 憧れの、博多の屋台のようにセットした馬車に彼女たちを招く。

 「お席に着いてください」

 そして、お絞りを差し出す。
 日本のおもてなし術、とくと御覧ごろうじろ。

 「では、最初の一品目。猪肉の燻製と山菜の和え物です」

 ……ちなみに燻製肉ってベーコンの事。
 勿論日本のスーパーで三連四連で売ってる薄いのじゃなくベーコンブロックにした猪肉を、山菜と一緒にシーザーサラダドレッシングで和えた、要はシーザーサラダのアレンジ。

 少しでもさっぱりいただけるメニューが一つは欲しかったんだよね。
 ベーコンだけだとしょっぱくても、野菜と食べればいいアクセントとして仕事してくれる。

 「……このソースは悔しいが美味いな。しかし、この燻製肉。不味くはないが、仕事がちと甘すぎやしないか? 調味料の加減、慣れてないだろう?」

 ぐっ、そりゃベーコンなんて出来たの買うのが当たり前でしたもん。
 それでもフライパンで燻製って、前世で興味本位に試したのを必死で思い出して作ったのに!
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