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第一章

レストさんの頼み事

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 屋台の営業を終えた私達は、彼の話を聞くためレストに案内されて、街の料理屋に来ていた。

 そこは、大半がテラス席の庶民的な料理屋だが、大衆向けの居酒屋程は騒がしくなく、程よい喧騒と吟遊詩人の唄をBGMに、美味しい魚料理を出す店だった。

 「わぁ、もしかしてコレ鯉……?」
 「ああ。知っていたか。……観賞魚として鯉を知っている者は富裕層には少なくないが、その方々でも食用の鯉を知らぬと言う者も居るというのに」

 ……しまった、鯉がいるなら鯉こくで勝負しても良かったかな?
 いや、でも鯉の下処理が上手くいかないと美味しくないのよね……、リスクもあるしやっぱりここは肉まんで正解だったと思おう。
 結構な売上も稼げたしね。

 さて、美味しい食事もデザートの水まんじゅうと水ようかんにお茶が出てきてまったりとした空気感になった頃、レストさんが話を切り出した。

 「……俺を雇ってくれないか」

 そもそも口下手そうなレストさん、彼自身もその自覚があるようで、ごちゃごちゃ余計な事を言わずにズバッと簡潔過ぎる程簡潔に自らの願いをまず真っ先に述べた。

 「ミルフィを助けてくれた時、野生のキツネの対処にも困っていたようだ。この辺りはまだ平和な土地だが、それでも野生動物やちょっとしたチンピラなんかは居る。そんな面倒事に対処する専門家が居れば便利だろう? ……そのついでにミルフィも連れてってくれると助かるんだが」

 「あの、確かに護衛が居れば旅はもっと安全になるでしょうけど……、私達はまだ商人としては駆け出しなんですよ?
 駆け出しの割には稼げているとは思うけど、それはあくまで駆け出しの中ではの話で、人を雇う余裕は……。
 特に危ない場所で臨時に護衛を雇うくらいならなんとかなっても、常時人を……それもれっきとした現役冒険者を雇う余裕はありません」

 レストさんはSSSトリプルSランク~Fランクまである中、Cランクの冒険者だそうで。
 一般的な冒険者の中では優秀な方で、その分ギルドを通して雇うと結構な代金を必要とする。
 そんな人を常時雇っていたら私達なんかあっという間に破産する。

 だから、こちらも失礼にならない程度にオブラートに包みつつもはっきりとお断りする。

 が、レストさんも諦めない。
 「これは、ギルドを通しての依頼じゃない。だから報酬も基本飯と宿に困らない程度に貰えれば十分だ」
 とある報酬面では譲ってるけど、同行については譲らない。

 「いったい何で……」

 冒険者も見習いのFランクや一人前になりたての初心者Eランクなら報酬も安いので、私達駆け出し商人の売上でも稼いでいるように見えるのはまだ分かる。
 でも、ベテランのCランクなら私達より余程稼げるハズだ。
 社会的信用も根無し草の私達より上。

 それを捨ててまで私達について来たい理由が、全くもって分からなかった。
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