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第一章

狐とうさぎ

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 助けて、と求められた時にはシャリーは既に彼女に駆寄ろうと走り出した後で。
 即座に足を止めるのは、馬車よりは――とは言え即座にというのは特別な訓練も受けていないシャリーには難しく。

 そんなに距離もなく、気付けば少女のそばまで駆け寄ってしまっていて。

 「シャリー!」

 後ろから酷く慌てたロイスの声が自分の名前を読んだ。
 その声に答える前に、バッと黒い影が勢いよくヤブから飛び出してきた。

 反射的に地面に伏せられたのは正直奇跡的だったと、シャリーは後にこの瞬間を振り返り、その度に思う。
 結果、空振りした上勢い余って反対側のヤブに顔を突っ込みケツだけこちらに向けた間抜けは――

 「……狐?」

 犬にしては少し細く、その割に尻尾は長く太い。
 マズルはヤブに刺さって今は見えないが、犬よりシュッとした顔をしていれば狐確定だ。

 狼やイノシシでなかった事に少しホッとしつつ。
 しかし、狼程でなくとも狐も肉食獣でうさぎにとってはどちらも天敵、むしろ狼は群れでもっと大物を狙う事が多いのだから、うさぎ的には狐の方が天敵だろう。

 この娘は獣人で、あれは普通に獣の狐の様だけど……、

 兎の獣人では、ジャンプ力と逃げ足には定評があるものの、この年頃の娘では……
 そして狩りの最中の狐に相手に丸腰では危険なのは変わらない。

 狼に比べれば若干とはいえ体躯が小さく、また群れでなく単体なのが不幸中の幸い、と言えば確かにそうだが、それでも爪と牙は当たり前に装備している。
 噛まれたり引っかかれたりすれば大怪我は免れないし、この世界にエキノコックスとか言う寄生虫が存在するかは知らないが、狐は狐で狼とは違う厄介さがある。

 回れ右してこちらを向く前にと急いでウサミミ娘を抱きかかえて馬車に戻ろうと走るが、体力的にシャリーはごく普通の女の子。
 魔法や戦闘的な能力は、チートは勿論ある訳無いし、そんな訓練を受けた事もない。

 故に馬車までの距離の半分も稼げぬうちに敵は自らの失態を取り返し、次の攻撃準備に入る。

 間に合わない、シャリーは肝を冷やす。
 ロイスも間に入って庇おうと動き出して入るが、果たして間に合うか。
 戦闘能力で言えば、男の子な分腕力はシャリーに多少勝るけれど、所詮素人なのはシャリーと同じ。

 馬車を操るムチという武器っぽい物はあるけど、アレは戦闘にはあまり向かない。
 せいぜいコケ脅しに効けば儲けもの、というレベルの代物。

 それでも、一瞬怯ませ飛びかかるのを躊躇させる事には成功した。

 だけど、馬車まであと数歩、届かない。
 万事休す――。

 シャリーは怪我を覚悟した。
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