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第一章

うなぎ、食べたいです。

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 ……色々見て回った結果、刺し身的な料理はカルパッチョやらも含めて無かった。

 新鮮な魚を自分で捌けば……とも思ったけれど、ぱっと見で魚の種類は分からないし、そもそも日本のスーパーで売っていた刺し身はどれも海の魚の物だった。

 だけどどんなに探しても海のお魚は加工品ばかり。

 川のお魚は尾頭付きのが生簀で泳いでたり……、ん? まて、あれは……まさか……

 「おいちゃん、おいちゃん、そこのいけすの魚は?」

 「うん? ああ、あれか。ありゃうなぎって魚でな、精がつくって好事家がたまに欲しがるんで一応仕入れちゃいるが、見た目も気持ち悪いし、泥臭くて骨ばってる上に、毒までありやがるんで、一般にはまず売れない、いろんな意味で面倒な魚さ」

 ほほう、刺し身はなかったけどある意味それ以上のごちそうを発見。

 ……だけど。

 私はその場ではうなぎを買わず、他の店を見て回る。
 何せうなぎは焼き鳥以上の職人技を必要とする。特に蒲焼きは。
 そしてうなぎと言って一番に思い浮かぶのはやっぱり蒲焼きを乗せたうな丼、あるいはうな重だからね。
 何よりあの匂いは……十分すぎる武器ですもの。
 お米もまだある。

 だけど、泥抜きまでと、串打ち後は、老舗や有名店の様には行かずとも、そのへんのスーパーに売ってるレベルのうなぎなら何とかなったとしても、だ。

 捌いて串を打って蒸す。
 テレビで職人がやっているのを見ると実に簡単そうだけど、実際は至難の業なのだよ、素人にはさ。

 当たればこの屋台激戦区でも戦えそうだけど、やっぱり自分で食べる分だけ買おうかと決めかけた時。

 「なぁ、さっきから何考え込んでるんだ?」

 とロイスがこちらの顔を覗き込んで尋ねてきた。

 「いや、さっに魚屋で見たあのでかくて黒いミミズのバケモンみたいな魚見てから何かずっと上の空だからさ。なぁ、さっきの魚、あのおっちゃんは不味いって言ってたよな? 値段はそのせいか割と安かったけど、何をそんな悩んでいるんだよ」

 「いや、確かに何もせずそのまま食べたら不味いんだよ。でも、きちんと調理すればすごく美味しい魚なんだ。だけど、その“ちゃんと”をこだわり抜いたら職人レベルの技が必要なの。自分で食べる分にはいいけど、売り物にするならちょっと自分に自信なくてね」

 「……うなぎってのには毒があるってあのおっちゃん言ってたけど、毒を出すレベルで自信ないのか?」
 「いや、流石にそれはない。ただ、調理の過程で身をボロボロにしそうとか、小骨の処理とか色々アラが出そうって話で……」

 「なら、挑戦してみないか? どうせこの街は激戦区で俺たちに勝ち目なんてない。だから、失敗しても持ちこたえられるレベルの予算で勝負しようぜ」
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