13 / 125
第一章
関東風VS関西風
しおりを挟む
「……駆け出しの俺らからすればこれが当たり前、なのかも知れねぇが、な。ちとこの数字はヤバくねぇ?」
……寒い日に温かいうどんはそこそこ好評で、特に女性の評判は悪くなかったんだけど。
男性や子供にはウケがあまり良くなかった。
その訳を、その日の夜、その町の食事処で知る。
おかずとして出された煮物の、味の濃いこと!
酒のアテには良さそうだけど、それだけで食べるにはしょっぱ過ぎた。
が、周囲ではこのしょっぱい煮物を当たり前の様に美味しくつまむ男たちの姿がある。
……そういえば黒ラーメンだとか黒うどんとか、しょっぱい物は大概肉体労働者の多い地方の名物料理だったな、と思い出す。
そして、この町が農業に日々汗を流す肉体労働者の多い町だという事も。
どうやらシャリーは自分が、客層とその好みを読み間違えたらしいと悟る。
「そりゃ、売上も振るわない訳よね」
そうと分かれば話は早い。
……一応関西風出汁も大人の女性やご老人には好評だったのである程度の量は用意するが、大半を関東風の醤油の色の濃いうどんつゆを用意して、翌日の営業を開始した。
すると、やはり関東風のつゆのうどんの売れ行きが、関西風の数倍上を行く勢いで売上を伸ばしていく。
狐も狸でもない素うどんなのが少し寂しいけど。
「あー、暖まるな」
「何かほっとする味だよな」
「軽く食べられるのも良い」
うんうん、温かい汁麺というジャンルなら他にもラーメンや蕎麦など様々あるけど、一番ほっとする味なのはうどんなんじゃないかと個人的に勝手に思っている。
日が暮れる頃には、昨日の不調が嘘のように完売した。
流石に昨日の不調を全てカバーするまでは及ばずとも、平均すれば悪く無い売上高だ。
「ロイス、今後店を出す時はその前に一日、町の様子をよく見てからメニューを決めましょう。食材も勿論だけど、今回みたく町の人の好みを大きく外すと私達も大ダメージ受けるから」
これが行商ではなく町で固定の店を出すなら私達も当たり前にそのリサーチはしただろうけど、行商な上最初から上手く行き過ぎて、その重要な基本を疎かにしていた。
「まだ旅の始め、それも回復不能な失敗をする前に気づけて良かった……」
お好み焼きや焼き鳥に比べれば総売上は劣るが、他と比べれば平均以上に稼げている。
「そろそろ国境も近づいて来たし、国が変われば食べ物も変わるよな?」
「うん、だからその辺を見極める力も磨いていかないと」
「おう!」
威勢の良い返事をしたロイスはいい笑顔で硬貨を一枚弾き、
「俺達も何か食おうぜ、腹減った」
と、私に夕食を強請るのだった。
……寒い日に温かいうどんはそこそこ好評で、特に女性の評判は悪くなかったんだけど。
男性や子供にはウケがあまり良くなかった。
その訳を、その日の夜、その町の食事処で知る。
おかずとして出された煮物の、味の濃いこと!
酒のアテには良さそうだけど、それだけで食べるにはしょっぱ過ぎた。
が、周囲ではこのしょっぱい煮物を当たり前の様に美味しくつまむ男たちの姿がある。
……そういえば黒ラーメンだとか黒うどんとか、しょっぱい物は大概肉体労働者の多い地方の名物料理だったな、と思い出す。
そして、この町が農業に日々汗を流す肉体労働者の多い町だという事も。
どうやらシャリーは自分が、客層とその好みを読み間違えたらしいと悟る。
「そりゃ、売上も振るわない訳よね」
そうと分かれば話は早い。
……一応関西風出汁も大人の女性やご老人には好評だったのである程度の量は用意するが、大半を関東風の醤油の色の濃いうどんつゆを用意して、翌日の営業を開始した。
すると、やはり関東風のつゆのうどんの売れ行きが、関西風の数倍上を行く勢いで売上を伸ばしていく。
狐も狸でもない素うどんなのが少し寂しいけど。
「あー、暖まるな」
「何かほっとする味だよな」
「軽く食べられるのも良い」
うんうん、温かい汁麺というジャンルなら他にもラーメンや蕎麦など様々あるけど、一番ほっとする味なのはうどんなんじゃないかと個人的に勝手に思っている。
日が暮れる頃には、昨日の不調が嘘のように完売した。
流石に昨日の不調を全てカバーするまでは及ばずとも、平均すれば悪く無い売上高だ。
「ロイス、今後店を出す時はその前に一日、町の様子をよく見てからメニューを決めましょう。食材も勿論だけど、今回みたく町の人の好みを大きく外すと私達も大ダメージ受けるから」
これが行商ではなく町で固定の店を出すなら私達も当たり前にそのリサーチはしただろうけど、行商な上最初から上手く行き過ぎて、その重要な基本を疎かにしていた。
「まだ旅の始め、それも回復不能な失敗をする前に気づけて良かった……」
お好み焼きや焼き鳥に比べれば総売上は劣るが、他と比べれば平均以上に稼げている。
「そろそろ国境も近づいて来たし、国が変われば食べ物も変わるよな?」
「うん、だからその辺を見極める力も磨いていかないと」
「おう!」
威勢の良い返事をしたロイスはいい笑顔で硬貨を一枚弾き、
「俺達も何か食おうぜ、腹減った」
と、私に夕食を強請るのだった。
292
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる