上 下
62 / 65
第四章 海の恵みを求めて

壱話 副作用

しおりを挟む
    「草治、怪我の具合はどうだ?」
    「血は止まった。傷も一応塞がったらしい。ちょっと動きすぎたらまた開きそうだが、このくらいなら優菜の薬で何とかなる」
   「よ、よかった……!」
    草治の言葉に優菜がすすり泣く。
    私はと言えば……正直まだまだ余裕はある。
   「あの、必要ならもう少しくらいなら血を提供できますよ?」
    せめてもう少し傷を治して簡単には開かないくらいにまではして欲しい。……あんなスプラッタな光景は、魔物相手なら問題なくとも人、それも仲間のものでなんて見たいはずがなかったから。
    「止めておけ。それ以上血を俺に吸われればあまり良くない影響が出かねない。……というか、加減が出来た気がしなかったからな、既に体験したんじゃないか?」
    「……俺が声をかけるまで正気じゃなかっただろ。今回は非常事態だったから、ギリギリまで止めなかったが、普段の吸血であんな事になったなら、俺は草治を殴り倒してるぜ」
    彼らが言うには、吸血鬼という種族は吸血によって人を催眠状態にしてしまえるらしい。……そういえば何か夢見心地になっていた覚えがある。
    「それも、俺達みたいな魔族の別種族なら耐性があるからまず効かないが、人間はそれがないからな、良く効くんだよ」
    そしてそれは多く血を吸われれば吸われる程深く侵されていくのだという。
    「こいつは吸血鬼だ。人間のお前さんより遥かに頑丈で傷の治りも早い。当面の出血が治まればもう命の危険はないから安心しろ」
   「はい、その通りです。この程度の傷、私の薬があれば二、三日で治ります。陽彰が血をくれたお陰です。妹としても、パーティーメンバーとしても、陽彰には感謝していますわ」
    そうか、この傷が彼らの感覚だと「この程度」になってしまうのか。
     本人含めて全員から拒否されてしまえばそれ以上強くも言えず、私は静かに優菜の手当てを見守った。
    「だが、あの男は完全に草治を殺したと思ってるだろうからな。あてが外れて良い気味だぜ」
    「はは、大方陽彰に怖がられて逃げられて、助けを得られずあえない最期を……って台本だったんだろうがね。脚本家は陽彰を見誤っていたようだね」
    「だが、このまま都を出れば遅かれ早かれまた緋川が煩かろう。さっさと都を出よう」
    「そうだな。またしばらく優菜の亜空間で世話になるとするか」
     手当てを終えた兄妹がゆっくり立ち上がる。
    「歩くくらいなら問題なさそうだ。さっさと都を出よう」
    「……その前に草治は着替えろ。流石に血染めの着物じゃ門を潜る前に警らの兵に質問攻めにされるぞ」
     そして、私達は今度こそ都を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...