61 / 65
第三章 想いのありか
肆話 生存本能
しおりを挟む
これだけの出血量なのだから、意識不明どころか下手したら即死だってあり得ただろうと思う。
なのに、これだけの怪我をしてもまだ草治は辛うじて意識があった。
そんな彼の前に蒼月が、自らの筋肉質で太い腕を差し出した。
草治は苦しげにしながらも、その腕に噛みついた。
「ひっ!」
その行動で、草治の種族を悟ったらしい野次馬達があっという間に散っていった。
聞かされてはいたけれど、吸血鬼への忌避感の根深さを垣間見た気がしてイライラしそうになるけど、今はそれどころではないと、余計な考えを頭から追い出す。
「クソッ、やっぱ緊急時じゃ俺のじゃ駄目か……!」
蒼月が声を荒げた。
「……頼む陽彰、草治に血をやってくれ!」
そんなに必死に頼まなくても、必要なら私に拒む意思はない。
「やめろ、今の俺には加減がきかん。お前なら慣れてるしその力もあるが、陽彰では抵抗出来ないだろう」
「俺が見張ってる。もしもの時は俺が力尽くで引き剥がすさ」
「……?」
二人のやり取りの意味が分からずいると、華乃がこそっと教えてくれる。
「吸血鬼は血を飲めばあの程度の傷は自力で治せちまう力の強い種族なんだけだね。その血っていうのが人間のじゃないとダメなんだよ。普段の吸血なら問題ないんだけどねぇ……」
……治せるけど、その為に必要な血液の量も普段以上に必要らしい。うっかりの危険性を彼は危惧しているらしい。
「草治、今はそんな事言ってる場合じゃ無いでしょ。死にたいんですか? 優菜を置いて? ほら、ご託は良いからさっさと飲んで下さいよ!」
私は苦い薬を嫌がるチビッ子相手にするように、半ば無理やり頭を捕まえ口を開けさせた。
「お、おま……何を!」
草治は慌てているけど、どうやら本能的な欲求に抗いきれなかったらしく、いつもより若干荒々しく噛みつかれた。……いつも通り痛くはないけど。
痛くはないけど……あれ? 何だかいつもと違う。ふわふわするというか気持ちが良いというか……。
「そこまでだ!」
蒼月に引き剥がされるまで何故か夢見心地だった私はハッと我に返った。
「よし、取り敢えず出血は止まったな。一先ずこの場をずらかるぜ!」
蒼月が、私と草治を両脇に抱えて走り出した。
その後ろを優菜と華乃が必死について来る。
がくがくと揺さぶられているうちに、いつの間にか人通りの無い空き地に連れて来られていた。
「草治、無事か?」
だけど真っ先に安否確認されたのは草治だった。
「……なんとか、な」
疲れた顔で彼はそう答えた。
なのに、これだけの怪我をしてもまだ草治は辛うじて意識があった。
そんな彼の前に蒼月が、自らの筋肉質で太い腕を差し出した。
草治は苦しげにしながらも、その腕に噛みついた。
「ひっ!」
その行動で、草治の種族を悟ったらしい野次馬達があっという間に散っていった。
聞かされてはいたけれど、吸血鬼への忌避感の根深さを垣間見た気がしてイライラしそうになるけど、今はそれどころではないと、余計な考えを頭から追い出す。
「クソッ、やっぱ緊急時じゃ俺のじゃ駄目か……!」
蒼月が声を荒げた。
「……頼む陽彰、草治に血をやってくれ!」
そんなに必死に頼まなくても、必要なら私に拒む意思はない。
「やめろ、今の俺には加減がきかん。お前なら慣れてるしその力もあるが、陽彰では抵抗出来ないだろう」
「俺が見張ってる。もしもの時は俺が力尽くで引き剥がすさ」
「……?」
二人のやり取りの意味が分からずいると、華乃がこそっと教えてくれる。
「吸血鬼は血を飲めばあの程度の傷は自力で治せちまう力の強い種族なんだけだね。その血っていうのが人間のじゃないとダメなんだよ。普段の吸血なら問題ないんだけどねぇ……」
……治せるけど、その為に必要な血液の量も普段以上に必要らしい。うっかりの危険性を彼は危惧しているらしい。
「草治、今はそんな事言ってる場合じゃ無いでしょ。死にたいんですか? 優菜を置いて? ほら、ご託は良いからさっさと飲んで下さいよ!」
私は苦い薬を嫌がるチビッ子相手にするように、半ば無理やり頭を捕まえ口を開けさせた。
「お、おま……何を!」
草治は慌てているけど、どうやら本能的な欲求に抗いきれなかったらしく、いつもより若干荒々しく噛みつかれた。……いつも通り痛くはないけど。
痛くはないけど……あれ? 何だかいつもと違う。ふわふわするというか気持ちが良いというか……。
「そこまでだ!」
蒼月に引き剥がされるまで何故か夢見心地だった私はハッと我に返った。
「よし、取り敢えず出血は止まったな。一先ずこの場をずらかるぜ!」
蒼月が、私と草治を両脇に抱えて走り出した。
その後ろを優菜と華乃が必死について来る。
がくがくと揺さぶられているうちに、いつの間にか人通りの無い空き地に連れて来られていた。
「草治、無事か?」
だけど真っ先に安否確認されたのは草治だった。
「……なんとか、な」
疲れた顔で彼はそう答えた。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】鬼華
蒼琉璃
恋愛
ひらひらと舞う僕の美しい蝶々。
壊れたお前はなんて美しいんだろう。
ああ、これが愛してるって事か。
永遠に僕の側で愛らしく鳴いていて欲しい。
お前を奪いに来るやつは誰であろうと許さない――――。
月に叢雲、花に風。のスピンオフ作品です。
本編とは別のパラレルワールドと思っていただけると幸いです。
鬼蝶×若菜のメリーバッドエンドからのストーリーで、若干のネタバレを含みますが個別でも楽しめるようになっています。
ヤンデレ鬼蝶に捕らわれ、溺愛される壊れたヒロイン。
幼女退行していますが、二人の愛の形です。
※四話〜五話ほどで完結します。ラストまで執筆していますが描き下ろしも加える予定なので話数は増えるかも知れません。
※残酷な描写、流血などもあります。
※Illustrator Suico様
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる