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第三章 想いのありか

参話 再びの悲劇

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    付き合う事になった、と聞かされて。
    上機嫌で笑う蒼月と、普段と全く変わらない華乃を見比べて。
   「え、いつから……?    というかどちらから?    てかこないだそんな話してなかったですよね?」
    思わず尋ねた。
   「……話だけは前々から貰ってたんだけどねぇ。私はその気じゃなかったから断ってたのさ」
    なら、蒼月さんからのアプローチだったのか……。
   「ああ、だが付き合ったからってこのパーティーを放り出すつもりはねぇからな。そこんとこ誤解してくれんなよ?」
    ――と。そんな話を聞かされた朝。
    驚きながらも支度をして皆で門へと向かう。
    都での用事は全て済んだし、さっさと海の街へ行って美味しい海鮮料理を食べるんだ!
    ……と、張り切っていたつもりだったんだけど。
   「お待ち下さい」
     街を出るのにも身分証明書が必要と言われて見せたらこの反応。……私達別に何も悪い事はしてませんよ?
    だけど。
    「――何か不備があったか?」
    「いえ。しかし通達にあったお名前でしたのでお呼び止め致しました」
    「……通達だと?」
    「はい、お屋敷にいらっしゃるようお伝えせよと仰せつかっております」
    お屋敷、と、草治に言うからには緋川の――彼が捨てたと言い、関わりたくないからこそ早々に都を出ることにした実家の事なんだろう。
    「……そうか」
    草治は目を伏せ一旦引き下がり、街中へと戻った。
    「――お兄様……」
    「しっ、……門は何もここだけではない。別の門へ行くぞ。通達の事を出されたら、既に他の門で聞いて用事は済ませたと言えば良い」
    草治はすたすたと歩き始め――
    「……貴方の事だ。そう言うだろうと思ってましたよ」
    その直後、不意に背後に低い声が降って来た。
    「草治!」
     とっさに蒼月が優菜を庇い、彼女を腹の下に隠して道に伏せた。だけど、少し前を歩いていた草治には届かない。私の隣を歩いていた華乃は私を自分の背後に隠し――
     直後、パッと血飛沫が噴水のように道に撒き散らかされた。
    「キャァァァァ!」
     他に一般人も多数いる街の往来だ。
     目抜通りからは外れているとはいえ、人通りはそれなりにある。
     注目を集めた凶手はすぐに姿をくらました。
    「草治!」
     ……私の時もこんな感じだったんだろうか?
     人目はパーティーメンバー以外皆無だったし、草治という医者がいた。だけど……
    「お兄様!」
    優菜が急いで背負っていた薬篭を下ろして中身を探り始めるけれど、この状況で薬師に出来る事は気休め程度だろう。これは外科手術が必要な怪我だ。
    だけど、蒼月や華乃は冷静だった。
   「草治、飲め!」
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