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第四章 生還
弐話 九死に一生
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目を開けると、皆の心配そうな顔が私の顔を覗き込んでいる様がまず目に入った。
「良かった……! 陽彰ちゃんが起きた!」
私の手を取りわんわん泣いている優菜ちゃん。
大きく長いため息を吐きながら両手で顔を覆ってしまった草治さん。
万歳しながら大喜びしている蒼月さんと、それを困った様に眺めながら笑う華乃さん。
私の額の上に乗り、ポカポカ叩いてくる晴明。
状況が把握できると同時に腹の痛みが襲ってきた。
「……まだ動くな、傷は縫ったが完治はしていないんだ」
草治さんに肩を押さえられ、布団に身体を固定される。
「内蔵は無事だったが静脈を縫った。表面的な傷だけなら治癒術て治しても良かったが、中の傷は妙な癒着を起こす可能性があって、ある程度治るまでは手が出せなかった。……お前が目覚めてくれて本当に良かったよ」
……この草治さん、この世界では珍しく外科手術の出来るヒトだったらしい。ついでに優秀な薬師付。
どうやら私は運良く九死に一生を得た様だった。
「助けてくれて、ありがとうございます。――それと。ご迷惑おかけしました」
草治さんに抜糸してもらい、治癒術をかけて貰ってようやく起き上がる事を許された私は深々と頭を下げた。
「それは、むしろこちらの台詞だろう。……あの様な狂人と私達は同じ一族なのだから。今度こそ私達を恐れて、離れたいと願うと思っていたんだがな」
「それは有り得ません!」
私は慌てて意思疏通のできない日本で出会った妖の話を幾つも並べ立てた。
「だからっ、直接――それも訳もなく酷い事とかされない限りは嫌ったりなんかしませんから……!」
あんなのに襲われても、彼らに助けられたから今私はこうして生きていられるんだから。
「それ……本当に……?」
涙で目を真っ赤に腫らした優菜ちゃんが上目使いに尋ねてくる。……可愛い。つい髪の毛撫で撫でしながら頷いた。
「ん。……とは言えもうしばらくは血をあげられないけど」
「あ、当たり前です! 私は薬師ですよ! 怪我していっぱい血が出て貧血気味の人から血を吸うなんて事しませんよ! と言うかお兄様あたりが吸おうとしたら私が止めますから!」
「おいコラ優菜、俺だって医者だ。ンな阿呆な事するかよ」
「……とにかくっ、陽彰ちゃんはしばらく増血剤を毎日飲んで下さいね!」
「ああ、それ、さ……」
「はい?」
「うん、名前。呼び捨てでいいよ。ずっと気になってたんだ」
「あ……じゃ、じゃあ……陽彰……?」
「うん」
「じゃ、じゃあ私も! 私の名前も呼び捨てでお願いします!」
「なら俺も呼び捨てでいいよ、陽彰」
「おう、なら俺も!」
「じゃあアタシもついでに」
そしてやっと皆の顔に笑顔が戻ったのだった。
「良かった……! 陽彰ちゃんが起きた!」
私の手を取りわんわん泣いている優菜ちゃん。
大きく長いため息を吐きながら両手で顔を覆ってしまった草治さん。
万歳しながら大喜びしている蒼月さんと、それを困った様に眺めながら笑う華乃さん。
私の額の上に乗り、ポカポカ叩いてくる晴明。
状況が把握できると同時に腹の痛みが襲ってきた。
「……まだ動くな、傷は縫ったが完治はしていないんだ」
草治さんに肩を押さえられ、布団に身体を固定される。
「内蔵は無事だったが静脈を縫った。表面的な傷だけなら治癒術て治しても良かったが、中の傷は妙な癒着を起こす可能性があって、ある程度治るまでは手が出せなかった。……お前が目覚めてくれて本当に良かったよ」
……この草治さん、この世界では珍しく外科手術の出来るヒトだったらしい。ついでに優秀な薬師付。
どうやら私は運良く九死に一生を得た様だった。
「助けてくれて、ありがとうございます。――それと。ご迷惑おかけしました」
草治さんに抜糸してもらい、治癒術をかけて貰ってようやく起き上がる事を許された私は深々と頭を下げた。
「それは、むしろこちらの台詞だろう。……あの様な狂人と私達は同じ一族なのだから。今度こそ私達を恐れて、離れたいと願うと思っていたんだがな」
「それは有り得ません!」
私は慌てて意思疏通のできない日本で出会った妖の話を幾つも並べ立てた。
「だからっ、直接――それも訳もなく酷い事とかされない限りは嫌ったりなんかしませんから……!」
あんなのに襲われても、彼らに助けられたから今私はこうして生きていられるんだから。
「それ……本当に……?」
涙で目を真っ赤に腫らした優菜ちゃんが上目使いに尋ねてくる。……可愛い。つい髪の毛撫で撫でしながら頷いた。
「ん。……とは言えもうしばらくは血をあげられないけど」
「あ、当たり前です! 私は薬師ですよ! 怪我していっぱい血が出て貧血気味の人から血を吸うなんて事しませんよ! と言うかお兄様あたりが吸おうとしたら私が止めますから!」
「おいコラ優菜、俺だって医者だ。ンな阿呆な事するかよ」
「……とにかくっ、陽彰ちゃんはしばらく増血剤を毎日飲んで下さいね!」
「ああ、それ、さ……」
「はい?」
「うん、名前。呼び捨てでいいよ。ずっと気になってたんだ」
「あ……じゃ、じゃあ……陽彰……?」
「うん」
「じゃ、じゃあ私も! 私の名前も呼び捨てでお願いします!」
「なら俺も呼び捨てでいいよ、陽彰」
「おう、なら俺も!」
「じゃあアタシもついでに」
そしてやっと皆の顔に笑顔が戻ったのだった。
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