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第三章 緋川の追っ手
肆話 奮闘
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「陽彰ちゃん!?」
驚く優菜。だが。
「わしは晴明じゃ。今は札で無理矢理応急処置をしておるが、急がんと陽彰は死ぬ。とっととこやつをどうにかして、陽彰を助けろ!」
と現状を叫び、術を放つ。
「縛!」
異様に素早い奴じゃからの。取り敢えず足止めからじゃ。
「結界!」
さらに桔梗印で結界を張り、奴の術を封じた。
「臨兵闘者皆陣列在前!」
……これは生前しつこく突っ掛かって来おった輩が得意としていた術で少々気に障るが使いやすい攻撃手段ではある。今は細かい事を気にしている場合でもないしのぅ。
わしが術で足止めをした隙に、蒼月達も攻撃を始めた。蒼月は、人相手に殺す気で刃を振り下ろし、草治も見た事がない程怒っていた。
「くっ、その娘は一体何者だ! 何故動ける!」
一方の男は突然動けなくなった上に術を使えなくなり、しかも切り捨てたはずの陽彰が動いて戦っている事実に驚愕している。
……実際、陽彰は瀕死寸前の状態なのじゃ。それは当然の反応じゃろうな。あの村の者達も陽彰の様に気付けば刺されて命を奪われたのじゃろう。
「……クッ、分が悪いようですね。ここは一旦退散しましょう。ですが次はこうは行きませんよ!」
殆ど動けなかったはずが、奴め煙玉を投げてこちらの視界を奪った隙に、結界と縛術を力尽くで破って逃走しおった。
……逃げられたのは悔しいが、今はそれより陽彰じゃ。
「草治、優菜、陽彰を頼む!」
「優菜、亜空間を開け! 華乃は布団を、蒼月は湯を沸かしてくれ!」
「はい!」
「おう!」
草治の指示で皆テキパキと動き出す。
「優菜、消毒液を。蒼月、手術道具一式を煮沸消毒しろ」
草治は、陽彰の傷の具合を診ながら次々指示を飛ばす。
「……危ない所だったな。急所の腎臓や肝臓が奇跡的に無傷だ。ここをやられていたら出血量が増えて即死もあり得た」
傷が背中から腹にかけて貫通しているが、重要な内蔵や大きな動脈は幸いにも無事だったらしい。
「だが、静脈が幾つか傷ついている。縫合しよう。あと……優菜、増血剤を頼む」
「はい!」
煮沸消毒した道具を強い酒に浸けて更に消毒し、草治はその中から針と糸を選んで手にした。
「優菜、介助を頼む」
「はい!」
まずは背中の傷を縫う。
……麻酔は……無い。意識は無いものの顔が歪む。可哀想だがここは我慢して貰う他ない。
縫い閉じた傷の上に綿を貼りつける。
背中からのこれ以上の出血を止め、草治は血管の縫合に取りかかった。
優菜が血管の破れが見えやすい様に一時的に傷を広げる。……腹の中は暗いけれど、幸い吸血鬼の目は闇を見通す力がある。
急いで縫い付け、腹の傷も閉じる。
「……傷の治療は無事に済んだが――後は彼女の意識が戻るかどうかだな」
こればかりは草治も優菜もどうしようもない。
「陽彰ちゃん……」
優菜が泣きながら陽彰の手を握りしめる。
いつしか外は夜闇に包まれていた。
驚く優菜。だが。
「わしは晴明じゃ。今は札で無理矢理応急処置をしておるが、急がんと陽彰は死ぬ。とっととこやつをどうにかして、陽彰を助けろ!」
と現状を叫び、術を放つ。
「縛!」
異様に素早い奴じゃからの。取り敢えず足止めからじゃ。
「結界!」
さらに桔梗印で結界を張り、奴の術を封じた。
「臨兵闘者皆陣列在前!」
……これは生前しつこく突っ掛かって来おった輩が得意としていた術で少々気に障るが使いやすい攻撃手段ではある。今は細かい事を気にしている場合でもないしのぅ。
わしが術で足止めをした隙に、蒼月達も攻撃を始めた。蒼月は、人相手に殺す気で刃を振り下ろし、草治も見た事がない程怒っていた。
「くっ、その娘は一体何者だ! 何故動ける!」
一方の男は突然動けなくなった上に術を使えなくなり、しかも切り捨てたはずの陽彰が動いて戦っている事実に驚愕している。
……実際、陽彰は瀕死寸前の状態なのじゃ。それは当然の反応じゃろうな。あの村の者達も陽彰の様に気付けば刺されて命を奪われたのじゃろう。
「……クッ、分が悪いようですね。ここは一旦退散しましょう。ですが次はこうは行きませんよ!」
殆ど動けなかったはずが、奴め煙玉を投げてこちらの視界を奪った隙に、結界と縛術を力尽くで破って逃走しおった。
……逃げられたのは悔しいが、今はそれより陽彰じゃ。
「草治、優菜、陽彰を頼む!」
「優菜、亜空間を開け! 華乃は布団を、蒼月は湯を沸かしてくれ!」
「はい!」
「おう!」
草治の指示で皆テキパキと動き出す。
「優菜、消毒液を。蒼月、手術道具一式を煮沸消毒しろ」
草治は、陽彰の傷の具合を診ながら次々指示を飛ばす。
「……危ない所だったな。急所の腎臓や肝臓が奇跡的に無傷だ。ここをやられていたら出血量が増えて即死もあり得た」
傷が背中から腹にかけて貫通しているが、重要な内蔵や大きな動脈は幸いにも無事だったらしい。
「だが、静脈が幾つか傷ついている。縫合しよう。あと……優菜、増血剤を頼む」
「はい!」
煮沸消毒した道具を強い酒に浸けて更に消毒し、草治はその中から針と糸を選んで手にした。
「優菜、介助を頼む」
「はい!」
まずは背中の傷を縫う。
……麻酔は……無い。意識は無いものの顔が歪む。可哀想だがここは我慢して貰う他ない。
縫い閉じた傷の上に綿を貼りつける。
背中からのこれ以上の出血を止め、草治は血管の縫合に取りかかった。
優菜が血管の破れが見えやすい様に一時的に傷を広げる。……腹の中は暗いけれど、幸い吸血鬼の目は闇を見通す力がある。
急いで縫い付け、腹の傷も閉じる。
「……傷の治療は無事に済んだが――後は彼女の意識が戻るかどうかだな」
こればかりは草治も優菜もどうしようもない。
「陽彰ちゃん……」
優菜が泣きながら陽彰の手を握りしめる。
いつしか外は夜闇に包まれていた。
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