上 下
45 / 65
第三章 緋川の追っ手

肆話 奮闘

しおりを挟む
    「陽彰ちゃん!?」
    驚く優菜。だが。
    「わしは晴明じゃ。今は札で無理矢理応急処置をしておるが、急がんと陽彰は死ぬ。とっととこやつをどうにかして、陽彰を助けろ!」
    と現状を叫び、術を放つ。
    「縛!」
     異様に素早い奴じゃからの。取り敢えず足止めからじゃ。
    「結界!」
      さらに桔梗印で結界を張り、奴の術を封じた。
    「臨兵闘者皆陣列在前りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!」
    ……これは生前しつこく突っ掛かって来おった輩が得意としていた術で少々気に障るが使いやすい攻撃手段ではある。今は細かい事を気にしている場合でもないしのぅ。
    わしが術で足止めをした隙に、蒼月達も攻撃を始めた。蒼月は、人相手に殺す気で刃を振り下ろし、草治も見た事がない程怒っていた。
    「くっ、その娘は一体何者だ!    何故動ける!」
     一方の男は突然動けなくなった上に術を使えなくなり、しかも切り捨てたはずの陽彰が動いて戦っている事実に驚愕している。
    ……実際、陽彰は瀕死寸前の状態なのじゃ。それは当然の反応じゃろうな。あの村の者達も陽彰の様に気付けば刺されて命を奪われたのじゃろう。
    「……クッ、分が悪いようですね。ここは一旦退散しましょう。ですが次はこうは行きませんよ!」
    殆ど動けなかったはずが、奴め煙玉を投げてこちらの視界を奪った隙に、結界と縛術を力尽くで破って逃走しおった。
    ……逃げられたのは悔しいが、今はそれより陽彰じゃ。
    「草治、優菜、陽彰を頼む!」
    「優菜、亜空間を開け!    華乃は布団を、蒼月は湯を沸かしてくれ!」
    「はい!」
    「おう!」
    草治の指示で皆テキパキと動き出す。
     「優菜、消毒液を。蒼月、手術道具一式を煮沸消毒しろ」
     草治は、陽彰の傷の具合を診ながら次々指示を飛ばす。
     「……危ない所だったな。急所の腎臓や肝臓が奇跡的に無傷だ。ここをやられていたら出血量が増えて即死もあり得た」
    傷が背中から腹にかけて貫通しているが、重要な内蔵や大きな動脈は幸いにも無事だったらしい。
    「だが、静脈が幾つか傷ついている。縫合しよう。あと……優菜、増血剤を頼む」
    「はい!」
     煮沸消毒した道具を強い酒に浸けて更に消毒し、草治はその中から針と糸を選んで手にした。
    「優菜、介助を頼む」
    「はい!」
     まずは背中の傷を縫う。
     ……麻酔は……無い。意識は無いものの顔が歪む。可哀想だがここは我慢して貰う他ない。
    縫い閉じた傷の上に綿を貼りつける。
    背中からのこれ以上の出血を止め、草治は血管の縫合に取りかかった。
    優菜が血管の破れが見えやすい様に一時的に傷を広げる。……腹の中は暗いけれど、幸い吸血鬼の目は闇を見通す力がある。
    急いで縫い付け、腹の傷も閉じる。
    「……傷の治療は無事に済んだが――後は彼女の意識が戻るかどうかだな」
    こればかりは草治も優菜もどうしようもない。
   「陽彰ちゃん……」
    優菜が泣きながら陽彰の手を握りしめる。
    いつしか外は夜闇に包まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

【完結】ミックス・ブラッド ~異種族間混血児は魔力が多すぎる~

久悟
ファンタジー
 人族が生まれる遙か昔、この大陸ではある四つの種族が戦を繰り返していた。  各種族を統べる四人の王。 『鬼王』『仙王』『魔王』『龍王』 『始祖四王』と呼ばれた彼らが互いに睨み合い、この世の均衡が保たれていた。    ユーゴ・グランディールはこの始祖四王の物語が大好きだった。毎晩母親に読み聞かせてもらい、想いを膨らませた。  ユーゴは五歳で母親を亡くし、父親は失踪。  父親の置き手紙で、自分は『ミックス・ブラッド』である事を知る。  異種族間に産まれた子供、ミックス・ブラッド。  ある者は種族に壊滅的な被害をもたらし、ある者は兵器として生み出された存在。  自分がそんな希少な存在であると告げられたユーゴは、父親から受け継いだ刀を手に、置き手紙に書かれた島を目指し二人の仲間と旅に出る。  その島で剣技や術を師匠に学び、様々な技を吸収しどんどん強くなる三人。  仲間たちの悲しい過去や、告白。語られない世界の歴史と、種族間の争い。  各種族の血が複雑に混じり合い、世界を巻き込む争いへと発展する。  お伽噺だと思っていた『始祖四王』の物語が動き出す。  剣技、魔法、術の数々。異世界が舞台の冒険ファンタジー。

桃姫様 MOMOHIME-SAMA ~桃太郎の娘は神仏融合体となり、関ヶ原の戦場にて花ひらく~

羅心
ファンタジー
 鬼ヶ島にて、犬、猿、雉の犠牲もありながら死闘の末に鬼退治を果たした桃太郎。  島中の鬼を全滅させて村に帰った桃太郎は、娘を授かり桃姫と名付けた。  桃姫10歳の誕生日、村で祭りが行われている夜、鬼の軍勢による襲撃が発生した。  首領の名は「温羅巌鬼(うらがんき)」、かつて鬼ヶ島の鬼達を率いた首領「温羅」の息子であった。  人に似た鬼「鬼人(きじん)」の暴虐に対して村は為す術なく、桃太郎も巌鬼との戦いにより、その命を落とした。 「俺と同じ地獄を見てこい」巌鬼にそう言われ、破壊された村にただ一人残された桃姫。 「地獄では生きていけない」桃姫は自刃することを決めるが、その時、銀髪の麗人が現れた。  雪女にも似た妖しい美貌を湛えた彼女は、桃姫の喉元に押し当てられた刃を白い手で握りながらこう言う。 「私の名は雉猿狗(ちえこ)、御館様との約束を果たすため、天界より現世に顕現いたしました」  呆然とする桃姫に雉猿狗は弥勒菩薩のような慈悲深い笑みを浮かべて言った。 「桃姫様。あなた様が強い女性に育つその日まで、私があなた様を必ずや護り抜きます」  かくして桃太郎の娘〈桃姫様〉と三獣の化身〈雉猿狗〉の日ノ本を巡る鬼退治の旅路が幕を開けたのであった。 【第一幕 乱心 Heart of Maddening】  桃太郎による鬼退治の前日譚から始まり、10歳の桃姫が暮らす村が鬼の軍勢に破壊され、お供の雉猿狗と共に村を旅立つ。 【第二幕 斬心 Heart of Slashing】  雉猿狗と共に日ノ本を旅して出会いと別れ、苦難を経験しながら奥州の伊達領に入り、16歳の女武者として成長していく。 【第三幕 覚心 Heart of Awakening】  桃太郎の娘としての使命に目覚めた17歳の桃姫は神仏融合体となり、闇に染まる関ヶ原の戦場を救い清める決戦にその身を投じる。 【第四幕 伝心 Heart of Telling】  村を復興する19歳になった桃姫が晴明と道満、そして明智光秀の千年天下を打ち砕くため、仲間と結集して再び剣を手に取る。  ※水曜日のカンパネラ『桃太郎』をシリーズ全体のイメージ音楽として執筆しております。

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

超常はびこるこの世界をただの?身体強化で生きていく〜異能力、魔法、怪異、陰陽師、神魔、全て力で捩じ伏せる!〜

kkk
ファンタジー
 超常的な力が世界中に満ち、魔法や異能、怪異が日常の一部となった時代。  物語の舞台はかつて大規模な戦争が起きた際、東西に分断された日本。その西の中心に位置する最大の超常都市「ネオ・アストラルシティ」。  主人公であるカケルは、高校生ながら「身体強化」というシンプルでありながらも地味な能力を持ちながら、日々「何でも屋」として生計を立てていた。  そんな彼の前に次々と現れる異能力者、魔法使い、怪異、そして神魔を拳ひとつで次々と打ち倒していき、戦いを通じてカケルは自分自身の出生や「身体強化」能力に隠された真実に近づいていく。  これは少年が仲間たちと共に彼はこの力を武器に世界を変える戦いに挑む物語。  全ての力を越え、拳で運命を打ち砕く――。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...