43 / 65
第三章 緋川の追っ手
弐話 滅びた村
しおりを挟む
日の出から数時間が経った。
……なのに畑に出て仕事をする人影は一つも見ない。
私達は一軒ずつ家を見て回る。
どこの家でも、その家の住人が大量の血で地面や床を赤く染めた上に倒れ伏していた。……老若男女問わず、首や腹を切られ刺されて事切れている。
私達はそんな遺体を全て広場に集め、墓穴を掘って埋めて弔った。
――今は夏。……既に異臭がし始めている。これ以上おいておけば、状況はあっという間にもっと悪化するだろうから。
だけど、こんな大量殺人を犯した奴は一体何者なのか。とんだ殺人鬼じゃないか。日本なら各放送局で特番組んでニュースで実況してもおかしくあるまい。
「犯人はもうここには居ないよ。……役人に通報した所でこんな田舎村の事件など揉み消されて終わりだ」
怒りを抑えた顔と声で言いながら作業を続ける草治さん。
「……これをやらかしたのは、おそらく俺達の同族だからな」
全ての墓標が立ち、日も沈みかけた村で、だけど人死にがあった屋敷で休みたいとは思えず、昨夜に引き続き優菜ちゃんの亜空間で休む事にした。
「……俺達の一族が、諜報やら暗殺業やらに特化している事は以前に話したな?」
そこで草治さんが重い口を開いた。
「俺達を気に入らない家を、俺達は捨てて家を出た。だが、それを気に入らない連中が追っ手として刺客を放った。……俺達も黙ってやられてやる義理はないから適当にあしらって来たんだが……」
「あの連中は己が一族を貶められる事を酷く嫌いますからね。……お嬢がされた事を耳に入れてしまったんでしょうなぁ。……連中の気に入らない者でも姫は姫。それをこんな田舎の平民の若造が汚そうとした。――許せなかったんでしょうな。そやつらを庇う村の連中共々」
「……諜報を得意とするだけあって、人から話を聞き出す術には長けているからな。――俺と優菜にもその能力は備わっている。そしてその能力は普段の診察にも役立てているが、それ以上に連中の足取りを探るのに重宝しているんだからな。全く皮肉なものだ」
諜報系の能力はあっても、戦う術において劣る為に直接対決は分が悪く、運良く勝ってもまた新たな刺客が放たれるだけ。
「ここまで酷いのは初めてだが……」
似たような事はこれまでにも何度かあったらしい。
「ああ、くそ。一日中血の臭いを嗅ぎ続けたせいで、喉が乾いて仕方ねえ……!」
優菜ちゃんには華乃さんが、草治さんには蒼月さんがそれぞれさっき血を飲ませたばかりなんだけど。
……優菜ちゃんは――首を横に振っている。これ以上はいらないみたい。――だったら。
「……飲みますか?」
そう言えば、私はいつも優菜ちゃん担当で、草治さんに飲ませるのは初めてだ。
「アレを見て、今の話を聞いても俺を怖がらないのか?」
「草治さんがした事じゃないでしょ?」
それに、一人じゃ手に負えない事ってのもこの世には実際あるからね。
「……そうか」
草治さんが静かに私の腕に牙を立てた。
……やっぱり痛くはない。だけど……気のせいかな? 優菜ちゃんに血をあげる時には感じない、妙な感覚が……ある様な……?
だけど、それをはっきり認識するより早く吸血は終わってしまった。
一体今のは何だったのか。
あえて聞くのも……とその場は流してしまったけれど。少しだけ心臓の鼓動が早まっていたのだけは気のせいなんかじゃなかったと思う。
……なのに畑に出て仕事をする人影は一つも見ない。
私達は一軒ずつ家を見て回る。
どこの家でも、その家の住人が大量の血で地面や床を赤く染めた上に倒れ伏していた。……老若男女問わず、首や腹を切られ刺されて事切れている。
私達はそんな遺体を全て広場に集め、墓穴を掘って埋めて弔った。
――今は夏。……既に異臭がし始めている。これ以上おいておけば、状況はあっという間にもっと悪化するだろうから。
だけど、こんな大量殺人を犯した奴は一体何者なのか。とんだ殺人鬼じゃないか。日本なら各放送局で特番組んでニュースで実況してもおかしくあるまい。
「犯人はもうここには居ないよ。……役人に通報した所でこんな田舎村の事件など揉み消されて終わりだ」
怒りを抑えた顔と声で言いながら作業を続ける草治さん。
「……これをやらかしたのは、おそらく俺達の同族だからな」
全ての墓標が立ち、日も沈みかけた村で、だけど人死にがあった屋敷で休みたいとは思えず、昨夜に引き続き優菜ちゃんの亜空間で休む事にした。
「……俺達の一族が、諜報やら暗殺業やらに特化している事は以前に話したな?」
そこで草治さんが重い口を開いた。
「俺達を気に入らない家を、俺達は捨てて家を出た。だが、それを気に入らない連中が追っ手として刺客を放った。……俺達も黙ってやられてやる義理はないから適当にあしらって来たんだが……」
「あの連中は己が一族を貶められる事を酷く嫌いますからね。……お嬢がされた事を耳に入れてしまったんでしょうなぁ。……連中の気に入らない者でも姫は姫。それをこんな田舎の平民の若造が汚そうとした。――許せなかったんでしょうな。そやつらを庇う村の連中共々」
「……諜報を得意とするだけあって、人から話を聞き出す術には長けているからな。――俺と優菜にもその能力は備わっている。そしてその能力は普段の診察にも役立てているが、それ以上に連中の足取りを探るのに重宝しているんだからな。全く皮肉なものだ」
諜報系の能力はあっても、戦う術において劣る為に直接対決は分が悪く、運良く勝ってもまた新たな刺客が放たれるだけ。
「ここまで酷いのは初めてだが……」
似たような事はこれまでにも何度かあったらしい。
「ああ、くそ。一日中血の臭いを嗅ぎ続けたせいで、喉が乾いて仕方ねえ……!」
優菜ちゃんには華乃さんが、草治さんには蒼月さんがそれぞれさっき血を飲ませたばかりなんだけど。
……優菜ちゃんは――首を横に振っている。これ以上はいらないみたい。――だったら。
「……飲みますか?」
そう言えば、私はいつも優菜ちゃん担当で、草治さんに飲ませるのは初めてだ。
「アレを見て、今の話を聞いても俺を怖がらないのか?」
「草治さんがした事じゃないでしょ?」
それに、一人じゃ手に負えない事ってのもこの世には実際あるからね。
「……そうか」
草治さんが静かに私の腕に牙を立てた。
……やっぱり痛くはない。だけど……気のせいかな? 優菜ちゃんに血をあげる時には感じない、妙な感覚が……ある様な……?
だけど、それをはっきり認識するより早く吸血は終わってしまった。
一体今のは何だったのか。
あえて聞くのも……とその場は流してしまったけれど。少しだけ心臓の鼓動が早まっていたのだけは気のせいなんかじゃなかったと思う。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる