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第三章 緋川の追っ手
壱話 事件発生
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「え、嘘でしょ……? 何、コレ……?」
数日優菜の亜空間に引きこもった私達は、久しぶりに外の空気を吸い、そっと村の様子を伺いに夜の闇に紛れて山を降りて来た――の、だが。
夜とはいえあまりにも静かすぎる村の中、やけに鉄臭い匂いががするのは気のせいか?
――いや、草治さんと優菜ちゃんが顔をしかめているのを見る限りはどうやら気のせいではないらしい。
そっと足音を忍ばせ、一番村外れの家へと侵入しようと敷地内へ足を踏み入れ――そして、発見してしまった。
倒れ伏す男が一人。地面に濡れた染みを作ってうつ伏せに倒れたまま動かない。
……何か、物凄く嫌な感じがする。
草治さんが首に手を当て脈を診る。が、すぐに首を横に振った。
いつから倒れていたかは知らないが、家が静かすぎる。男をそのままに、家の玄関の引き戸を開ける。
土間と台所がまず目に入り、そのまま横を向けば板間と囲炉裏があり――そして、年寄りと女性と子供が水溜まりの中で転がっていた。
……鉄臭い水溜まりに不快そうな顔をしながら彼らの脈を診る草治さんが、やはり首を横に振る。
この家の住人は、残らず殺されていた。
「お兄様、これは……」
「――連中の仕業だろうな」
どうやら兄妹にはこの凶手の目星がついているらしい。
「これは、詳しい見聞は日が昇ってからにすべきだな。……優菜」
「――はい」
優菜ちゃんが、亜空間魔法を使った。――こんな村の中で彼女がこの魔法を使うのは、私が知る限りでは初めてだ。
「取り敢えず、今は休もう」
その提案はありがたかった。
この世界に来てからこっち、動物や魔物を狩り、獲物を捌くのには流石にもう慣れたけど。
やっぱり獣と人間は心情的に異なるものらしい。
……暗闇でそんなにしっかり見た訳じゃなくても、あんなあからさまに殺された人間の遺体をいきなり幾つも見せられて、陽彰は気分を少し悪くしていた。それも、子供の遺体まであったのだ。
今寝たら嫌な夢を見そうで眠りたくない。
「優菜、陽彰に眠れる薬をやってくれ」
「……ああ、ああいうのは慣れてねぇとキツいか」
「すみません」
「アンタが謝る事じゃないよ。というか、本来アンタの反応が普通なんだ。むしろアタシらみたいにゃなってくれるなよ」
「ふむ。貴人の事情と言うやつか。……全く、こう言うのは時代どころか世界を違えてさえも変わらぬものなのかのぅ」
「あの、陽彰さん、これを……」
優菜ちゃんが薬を差し出してくる。
「飲んでおけ」
「はい……」
おそらく。日が出てから見る光景は、今日より凄惨なものになるんだろう。
私は憂鬱なまま、丸薬を水で流し込んだのだった。
数日優菜の亜空間に引きこもった私達は、久しぶりに外の空気を吸い、そっと村の様子を伺いに夜の闇に紛れて山を降りて来た――の、だが。
夜とはいえあまりにも静かすぎる村の中、やけに鉄臭い匂いががするのは気のせいか?
――いや、草治さんと優菜ちゃんが顔をしかめているのを見る限りはどうやら気のせいではないらしい。
そっと足音を忍ばせ、一番村外れの家へと侵入しようと敷地内へ足を踏み入れ――そして、発見してしまった。
倒れ伏す男が一人。地面に濡れた染みを作ってうつ伏せに倒れたまま動かない。
……何か、物凄く嫌な感じがする。
草治さんが首に手を当て脈を診る。が、すぐに首を横に振った。
いつから倒れていたかは知らないが、家が静かすぎる。男をそのままに、家の玄関の引き戸を開ける。
土間と台所がまず目に入り、そのまま横を向けば板間と囲炉裏があり――そして、年寄りと女性と子供が水溜まりの中で転がっていた。
……鉄臭い水溜まりに不快そうな顔をしながら彼らの脈を診る草治さんが、やはり首を横に振る。
この家の住人は、残らず殺されていた。
「お兄様、これは……」
「――連中の仕業だろうな」
どうやら兄妹にはこの凶手の目星がついているらしい。
「これは、詳しい見聞は日が昇ってからにすべきだな。……優菜」
「――はい」
優菜ちゃんが、亜空間魔法を使った。――こんな村の中で彼女がこの魔法を使うのは、私が知る限りでは初めてだ。
「取り敢えず、今は休もう」
その提案はありがたかった。
この世界に来てからこっち、動物や魔物を狩り、獲物を捌くのには流石にもう慣れたけど。
やっぱり獣と人間は心情的に異なるものらしい。
……暗闇でそんなにしっかり見た訳じゃなくても、あんなあからさまに殺された人間の遺体をいきなり幾つも見せられて、陽彰は気分を少し悪くしていた。それも、子供の遺体まであったのだ。
今寝たら嫌な夢を見そうで眠りたくない。
「優菜、陽彰に眠れる薬をやってくれ」
「……ああ、ああいうのは慣れてねぇとキツいか」
「すみません」
「アンタが謝る事じゃないよ。というか、本来アンタの反応が普通なんだ。むしろアタシらみたいにゃなってくれるなよ」
「ふむ。貴人の事情と言うやつか。……全く、こう言うのは時代どころか世界を違えてさえも変わらぬものなのかのぅ」
「あの、陽彰さん、これを……」
優菜ちゃんが薬を差し出してくる。
「飲んでおけ」
「はい……」
おそらく。日が出てから見る光景は、今日より凄惨なものになるんだろう。
私は憂鬱なまま、丸薬を水で流し込んだのだった。
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