41 / 65
第二章 不穏の気配
肆話 逃亡
しおりを挟む
草治さんに抱き起こされた彼女は着衣を乱されていて、着物は所々破れていた。
私は急いで自分の上着を脱いで彼女に着せた。
外傷は……薄くアザとかあるから殴られたりしたんだろうけど、大きな怪我は無さそうだ。
ホッとしていると、優菜ちゃんが目を覚ました。
「兄さん……皆……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
だけど、彼女はホッとするより怯えたように泣き出し謝り始めた。
「急いでこの村を離れないと……! 私が吸血鬼だってバレちゃった……」
彼女が言うには、抵抗して暴れて殴られた時に、咄嗟に噛みついてしまったらしい。……そして運良くと言うべきか運悪くと言うべきか……うっかり出血した血が口に入り飲み込んでしまったと。
うっすら残ったアザは、それによって急速治癒した結果だったらしい。血の量が僅かだったから完治にまでは至らなかった、と。
「今はあの男達しか知らないけど、すぐに噂は広まるわ……」
この暑い中で、カタカタと歯を鳴らして震える様は哀れとしか言い様がない。
「今ならこいつらを脅せば何とか……」
たった今連中を倒したばかりの蒼月さんがじろりとそのなれの果てを睨み下ろした。
「やめておけ。それで村の連中と騒ぎを起こせば更に面倒な事になる。……蒼月、お前は俺たちの荷物を取りに行け。華乃は寄合所への連絡を頼む」
それを、草治さんが冷静に止めて指示を出す。
「村の連中より厄介な者が嗅ぎ付けて来る前に逃げるぞ」
私達は、草治さんの指示でその日の夜に村を出て、山の中へと逃げ込んだ上で優菜ちゃんの亜空間の小屋へと落ち着いた。
「……ちょっと数日ここで落ち着こう」
普段は一晩過ごすだけの場所で、少々長居しようと言い出した草治さんが早々にゴロゴロとくつろぎ始めた。
仕方ない、と苦笑しながらも、表へ出ていった華乃さんが、どこからかお布団セットを持って来た。
「向こうに物置がある。人数分持って来るのを手伝っとくれ」
と、落ち込み気味の優菜ちゃんを急かす。
優菜ちゃんに案内されて私もついて行くと、倉と物置小屋とが並んで建っていた。
物置小屋には一通りの生活用品が揃えられていて、食糧さえあれば当分ここで暮らせてしまいそうだった。
私達は布団を抱えて戻る。
その晩は夕飯を食べて、柔らか布団でぐっすり眠って終わったけれど。
翌朝。
「久々にゆっくり薬草の世話でもしようかな……」
と優菜が出掛けて行き、草治さんは相変わらずゴロゴロしている。蒼月さんは外で素振りを始め、華乃さんは繕い物をしている。
私は何をしようかな……?
私は急いで自分の上着を脱いで彼女に着せた。
外傷は……薄くアザとかあるから殴られたりしたんだろうけど、大きな怪我は無さそうだ。
ホッとしていると、優菜ちゃんが目を覚ました。
「兄さん……皆……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
だけど、彼女はホッとするより怯えたように泣き出し謝り始めた。
「急いでこの村を離れないと……! 私が吸血鬼だってバレちゃった……」
彼女が言うには、抵抗して暴れて殴られた時に、咄嗟に噛みついてしまったらしい。……そして運良くと言うべきか運悪くと言うべきか……うっかり出血した血が口に入り飲み込んでしまったと。
うっすら残ったアザは、それによって急速治癒した結果だったらしい。血の量が僅かだったから完治にまでは至らなかった、と。
「今はあの男達しか知らないけど、すぐに噂は広まるわ……」
この暑い中で、カタカタと歯を鳴らして震える様は哀れとしか言い様がない。
「今ならこいつらを脅せば何とか……」
たった今連中を倒したばかりの蒼月さんがじろりとそのなれの果てを睨み下ろした。
「やめておけ。それで村の連中と騒ぎを起こせば更に面倒な事になる。……蒼月、お前は俺たちの荷物を取りに行け。華乃は寄合所への連絡を頼む」
それを、草治さんが冷静に止めて指示を出す。
「村の連中より厄介な者が嗅ぎ付けて来る前に逃げるぞ」
私達は、草治さんの指示でその日の夜に村を出て、山の中へと逃げ込んだ上で優菜ちゃんの亜空間の小屋へと落ち着いた。
「……ちょっと数日ここで落ち着こう」
普段は一晩過ごすだけの場所で、少々長居しようと言い出した草治さんが早々にゴロゴロとくつろぎ始めた。
仕方ない、と苦笑しながらも、表へ出ていった華乃さんが、どこからかお布団セットを持って来た。
「向こうに物置がある。人数分持って来るのを手伝っとくれ」
と、落ち込み気味の優菜ちゃんを急かす。
優菜ちゃんに案内されて私もついて行くと、倉と物置小屋とが並んで建っていた。
物置小屋には一通りの生活用品が揃えられていて、食糧さえあれば当分ここで暮らせてしまいそうだった。
私達は布団を抱えて戻る。
その晩は夕飯を食べて、柔らか布団でぐっすり眠って終わったけれど。
翌朝。
「久々にゆっくり薬草の世話でもしようかな……」
と優菜が出掛けて行き、草治さんは相変わらずゴロゴロしている。蒼月さんは外で素振りを始め、華乃さんは繕い物をしている。
私は何をしようかな……?
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる