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第一章 緋川兄弟の秘密

肆話 レアスキル

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    「……あれ?」
    ぷつりと彼女の牙が皮膚を破った感覚は確かにあった。……牙が肉に埋まり、まさに今血を吸い上げている感覚もあるのだけれど、何故か痛みの感覚だけが綺麗に無くなっている。
    ……痛くないじゃん。
    どんなに少なくても注射程度の痛みはあると覚悟していたのに拍子抜けも良いところだ。
    しかも二口程啜っただけでおしまい。……血液検査で採られる量より少ない様な――。
    ……痛みもなければ命の危機等程遠い吸血量。
   「えと、本当にもういいの?    遠慮とかしてない?」
    尋ねるけど、優菜ちゃんは首を横に振る。
   「――問題無い。よっぽど大怪我したとかじゃなければ普段は一口か二口飲めば十分なんだよ」
    それを草治さんが肯定した。
    えーと。これでどうして彼らを恐がる必要があるのか、私は理解できないんだけど。
    そう言ったら、優菜ちゃんがぎゅうと思い切り抱きついてきてわんわん泣き始めた。ちょっとやそっとじゃ離れてくれなそうで、仕方なくそのまま頭を撫でたりしてよしよしと甘やかした。
    その間に夕食の支度が調えられ、良い匂いがしてくる。
   「ほら、ご飯食べよう」
    ようやく離れてくれた優菜を隣に座らせ、いつもの味噌味おじやをいただく。 
    ……けど、ご飯を食べ終えたらまた優菜にひっつかれ、結局その晩は優菜と一緒に寝る事になった。
    冬なら暖かくて良いかもだけど、今は真夏。……暑いのに~、と思いながらもちょっとだけ人より低い体温のお陰で冷たく感じる彼女の肌が気持ち良かったのは……言わないでおこう。
    そして翌朝。朝食を食べて小屋を出る。
   「なぁ、どうせ吸血鬼って事もバレたんだ、こいつの事も喋っちまったらどうだ?」
    と、蒼月さんが小屋を親指で指して言った。
    「……そうだな」
     と、草治さんが優菜ちゃんを見た。
    「――分かりました」
     優菜ちゃんは仕方なさそうに指を鳴らした。
     すると、たちまち白い霧が立ち込めたと思ったら、小屋が消え、周囲の景色も変わった。
    ……いや、山の中なのは変わらないから大差はないけど、明らかに今の今まであった木々が別の木と配置に変わっている。
    どういう事かと混乱していると、草治さんが説明してくれる。
   「これが優菜の特殊能力なのさ」
    大体山一つ分の広さの亜空間にを持ち、その中にいくつかの小屋と薬草園を持っているんだとか。これまで山の中で泊まるのに使っていた小屋は全て優菜ちゃんの亜空間にある小屋だったらしい。
    ……道理で似たような小屋だと思ったよ。
    「だが、亜空間持ちは希少だ。安易に広めれば厄介なことになる。だから使うのは人気の無い山の中でだけだ」
     ……優菜ちゃんはレアスキル持ちだった様です。
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