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第一章 緋川兄弟の秘密
弐話 緋川兄妹
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「え、ええ!?」
山の中の川だ。まだ幅も狭くそんなに深くはない……とは言え蒼月さんの腰の下位まで水に隠れている。高低差も激しく流れも早い。
ちょっと山歩きに慣れてきたばかりの私に出来るのか?
「陽彰ちゃん、捕まって!」
だけど、華乃さんが私の手を取って川の中へと走る。……気を抜くと流れに足を掬われそうになるけど、その度に華乃さんが支えてくれて、何とか対岸にたどり着いた。
近くの木陰に寝かせた緋川兄妹に、蒼月さんは濡らしたタオルを額に当てた。
そして――。
小刀を手にしたと思ったら、おもむろに両手の親指の腹を切って血を出し、それを兄妹の口の中に突っ込んだ。
だけど、いつの間にか意識も朦朧としているらしい兄妹は、揃ってハッとして必死にその指にしゃぶりついた。
……その指を伝う赤い甘露を求めて。
そして、それを喉に通し胃に納めてしばし。顔色が元に戻り、意識も戻った。
ほっとする蒼月は、
「まだちっと身体はキツいかもしれんが、もう少し頑張ってくれ。この場を少しでも離れたい」
川を渡って多少臭いを誤魔化したけど、あくまで取り敢えずの応急処置でしかない。
「……ああ」
草治さんはちらりと私の顔を見て目を逸らし、優菜ちゃんはカタカタとこの暑い中で小刻みに身体を震わせていた。
だけど、話す間も惜しいと皆が歩き出すから、私もそれに従い早足について行く。そして、珍しく暗くなり始める前に小屋へと到着した。
「……ここまで来ればいいだろう」
小屋に入るなり、ぐったりと座り込んでしまった草治さん。逆に急いで中へと入り、奥の角で蹲ってしまった優菜ちゃん。
「ほら、飲め」
蒼月さんは袖を捲り上げて腕を草治さんに突き出した。
「もう、表に出る元気もねぇだろ?」
それを見て顔をしかめた草治さんに蒼月さんは言った。
「いい加減、誤魔化すのも面倒だ。ばらしちまえよ。……つーかさっきの時点で何となく察してはいそうだけどな」
……まあ、そうだけど。
だって……ねぇ? さっき明らかに二人とも血を飲んでたし。つまり……。
「――だな。はぁ、あー、つまり俺達兄妹は吸血鬼な訳だが……」
その草治さんの言葉に、ひっと優菜ちゃんが息を飲む音が聞こえた。
「まぁ、魔属の中でも人の血を飲むからな、嫌われやすい種族なのさ」
はぁ、とため息を一つ吐いて、草治さんは差し出された蒼月さんの腕に噛みついた。
一口、二口、三口。傷口に吸い付き血を飲み下すと、彼の腕を解放した。……不思議な事に噛まれた傷は見る間に治癒していく。
「いつも済まないな」
「ま、俺の実家は確かにお前の家に代々仕える家柄だがな、お互い家を捨てた身だろう。俺はお前のダチだから、好きでついて来てるんだから気にすんな!」
蒼月さんは明るく笑い飛ばす。
だけど――
「優菜……」
優菜ちゃんは震えて踞ったまま動かなくなってしまった。
山の中の川だ。まだ幅も狭くそんなに深くはない……とは言え蒼月さんの腰の下位まで水に隠れている。高低差も激しく流れも早い。
ちょっと山歩きに慣れてきたばかりの私に出来るのか?
「陽彰ちゃん、捕まって!」
だけど、華乃さんが私の手を取って川の中へと走る。……気を抜くと流れに足を掬われそうになるけど、その度に華乃さんが支えてくれて、何とか対岸にたどり着いた。
近くの木陰に寝かせた緋川兄妹に、蒼月さんは濡らしたタオルを額に当てた。
そして――。
小刀を手にしたと思ったら、おもむろに両手の親指の腹を切って血を出し、それを兄妹の口の中に突っ込んだ。
だけど、いつの間にか意識も朦朧としているらしい兄妹は、揃ってハッとして必死にその指にしゃぶりついた。
……その指を伝う赤い甘露を求めて。
そして、それを喉に通し胃に納めてしばし。顔色が元に戻り、意識も戻った。
ほっとする蒼月は、
「まだちっと身体はキツいかもしれんが、もう少し頑張ってくれ。この場を少しでも離れたい」
川を渡って多少臭いを誤魔化したけど、あくまで取り敢えずの応急処置でしかない。
「……ああ」
草治さんはちらりと私の顔を見て目を逸らし、優菜ちゃんはカタカタとこの暑い中で小刻みに身体を震わせていた。
だけど、話す間も惜しいと皆が歩き出すから、私もそれに従い早足について行く。そして、珍しく暗くなり始める前に小屋へと到着した。
「……ここまで来ればいいだろう」
小屋に入るなり、ぐったりと座り込んでしまった草治さん。逆に急いで中へと入り、奥の角で蹲ってしまった優菜ちゃん。
「ほら、飲め」
蒼月さんは袖を捲り上げて腕を草治さんに突き出した。
「もう、表に出る元気もねぇだろ?」
それを見て顔をしかめた草治さんに蒼月さんは言った。
「いい加減、誤魔化すのも面倒だ。ばらしちまえよ。……つーかさっきの時点で何となく察してはいそうだけどな」
……まあ、そうだけど。
だって……ねぇ? さっき明らかに二人とも血を飲んでたし。つまり……。
「――だな。はぁ、あー、つまり俺達兄妹は吸血鬼な訳だが……」
その草治さんの言葉に、ひっと優菜ちゃんが息を飲む音が聞こえた。
「まぁ、魔属の中でも人の血を飲むからな、嫌われやすい種族なのさ」
はぁ、とため息を一つ吐いて、草治さんは差し出された蒼月さんの腕に噛みついた。
一口、二口、三口。傷口に吸い付き血を飲み下すと、彼の腕を解放した。……不思議な事に噛まれた傷は見る間に治癒していく。
「いつも済まないな」
「ま、俺の実家は確かにお前の家に代々仕える家柄だがな、お互い家を捨てた身だろう。俺はお前のダチだから、好きでついて来てるんだから気にすんな!」
蒼月さんは明るく笑い飛ばす。
だけど――
「優菜……」
優菜ちゃんは震えて踞ったまま動かなくなってしまった。
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